抗うつ薬をやめようとして、めまいや頭に電気ショックのような感覚、吐き気、不眠に悩まされたことはありませんか?多くの人が薬をやめたいと思っても、その症状に怖気づいて中止を断念します。実は、この症状は「抗うつ薬離脱症候群」(ADS)と呼ばれるもので、薬を急にやめたときに起こる**生理的な反応**です。これを防ぐには、急いでやめるのではなく、ゆっくりと減量するスケジュールがカギになります。
なぜ急にやめると体に悪いか
抗うつ薬は、脳内のセロトニンやノルアドレナリンのバランスを整えることで気分を安定させます。薬を飲み続けると、脳はその状態に慣れてしまいます。いきなり薬をやめると、脳は一気に「足りない」と感じ、その反応として体にさまざまな症状が出ます。研究によると、抗うつ薬を急にやめた人の27~86%が離脱症状を経験します。症状の種類は人それぞれですが、よくあるのは:
- めまい(63%の人に報告)
 - 頭に電気ショックのような感覚(「脳のショート」)
 - 吐き気や下痢
 - 風邪のような倦怠感(45%)
 - 不安やイライラの増加
 - 悪夢や不眠
 
これらは「うつが再発した」と誤解されがちですが、実は薬の量が減ったことによる**一時的な反応**です。薬をやめるタイミングが悪ければ、うつが再発するリスクも高まります。2週間以内に急にやめた人の32%が、6か月以内に再発したというデータもあります。
減量の基本ルール:10~25%ずつ、1~4週間ごと
減量の基本は「少しずつ、ゆっくり」です。専門家が推奨する減量の幅は、1回あたり10~25%の減量を、1~4週間ごとに行うことです。たとえば、1日20mgのシタロプラムを飲んでいる場合:
- 20mg → 15mg(25%減)にし、2週間維持
 - 15mg → 10mg(33%減)にし、2~3週間維持
 - 10mg → 5mg(50%減)にし、3週間維持
 - 5mg → 2.5mg(50%減)にし、2~4週間維持
 - 2.5mg → 0mg(完全中止)
 
このように、最終段階では減量の幅をさらに小さくする必要があります。なぜなら、最後の10%の減量で、50%の離脱症状が起こるという研究結果があるからです。脳の受容体が薬に慣れている部分を、少しずつ再調整する必要があるのです。
薬の種類で変わる、減量のスピード
すべての抗うつ薬が同じように減量できるわけではありません。薬の「半減期」--体内で薬の濃度が半分になるまでの時間--が短い薬ほど、急にやめると症状が出やすいです。例えば:
- パロキセチン(半減期21時間):非常に短い。急にやめると44%の人が離脱症状を経験。
 - セルトラリン(半減期26時間):短め。減量は1週間に1回、5mg単位で行うのが安全。
 - フルオキセチン(半減期2~4日):長い。薬が体内に長く残るため、急にやめても症状が出にくい。場合によっては1週間で減量可能。
 - ベンラファキシン(半減期13時間):短い。減量は3~7日ごとに37.5mgずつが目安。
 
このため、パロキセチンやベンラファキシンをやめるときは、最低でも4週間以上の減量期間が必要です。一方、フルオキセチンなら2~3週間で終わることもあります。
他の薬に切り替える場合の方法
新しい抗うつ薬に変える場合、3つの方法があります。- 減量してから切り替え:古い薬を完全にやめてから、新しい薬を始める。MAO阻害薬の場合は、14~21日間の「洗浄期間」が必要。これは、二つの薬が重なると危険な「セロトニン症候群」を防ぐため。
 - 減量しながら切り替え:古い薬を減らしながら、新しい薬を少しずつ増やす。たとえば、ベンラファキシンを減らしながらセルトラリンを増やす場合、両方を3~7日ごとに調整します。
 - 急に切り替え:フルオキセチンのように半減期が長い薬だけに適用。他の薬には危険です。
 
切り替えの際は、医師と必ず相談してください。薬の相互作用で体に大きな負担をかける可能性があります。
最後の減量が一番難しい理由
多くの人が、最初の減量は大丈夫でも、最後の1~2mgでつまずきます。これは、脳のセロトニン受容体が、薬の濃度が極端に低くなったときに「異常」と感知するからです。この段階では、1mg単位での減量が有効です。錠剤が最小単位でないと、液体製剤を使う方法があります。2023年の研究では、液体製剤で1mg単位で減量した患者の離脱症状は62%減少しました。
また、減量のペースは「症状が出てから」調整するのが鉄則です。めまいや不眠が起きたら、そのレベルを維持して1~2週間待って、体が慣れるのを待ちます。無理に減量を進めると、症状が長引きます。
減量中に気をつけること
減量中は、体の変化に敏感になる必要があります。- 症状は「うつの再発」ではない:73%の人が離脱症状を「うつが悪化した」と誤解し、再び薬を飲み始めます。症状が出ていても、それが薬の減量によるものなら、数日で治まります。
 - 睡眠と食事の安定:カフェインを減らし、規則正しい睡眠を心がけましょう。ストレスが増えると、離脱症状が強くなります。
 - 日記をつける:毎日、気分、睡眠、症状の強さを記録すると、どの段階で何が起きたかがわかります。医師と共有すれば、より良い調整ができます。
 - 無理はしない:「2か月で終わらせなきゃ」と焦る必要はありません。8週間以上かけても、再発リスクは下がり続けます。12週間以上かけても、効果はそれ以上上がりませんが、体に無理をさせる必要はありません。
 
長期間使った人への特別な配慮
5年以上抗うつ薬を飲んでいる人には、より慎重な減量が必要です。長期使用では、脳が薬に強く依存しているため、離脱症状が長く(数か月)続くこともあります。このような場合、「マイクロ・テイパー」と呼ばれる超ゆっくり減量法が有効です。5~10%の減量を1~2週間ごとに行い、症状が落ち着くまで待つ方法です。これは、過去に離脱症状を経験した人にもおすすめです。
今後、遺伝子検査(CYP2D6やCYP2C19)で、自分の体が薬をどれだけ早く分解するかがわかるようになり、個人に合わせた減量スケジュールが可能になるかもしれません。2023年の研究では、この遺伝子の違いで、離脱症状の強さの38%が説明できるとされています。
減量を成功させるための3つのステップ
1. 医師と相談して、自分の薬の半減期と減量の目安を確認:薬の名前を伝えて、「どのくらいのペースで減らすべきか」を明確に聞いてください。 2. 減量計画を紙に書き出す:何mgから何mgに、何週間ごとにするかを具体的に決めましょう。最終目標は「完全中止」ではなく、「体がついていけるペース」です。 3. 症状が出たら、そのペースを維持:減量をやめるのではなく、そのレベルで「待つ」ことが重要です。1~2週間待てば、多くの症状は自然に治まります。抗うつ薬をやめるのは、薬を「やめる」ことではなく、「脳を自分自身の力で動かす練習」です。焦らず、自分のペースで進んでください。あなたがこのプロセスを乗り越えたとき、薬に頼らずに生きる力が、確実に育っています。
抗うつ薬をやめると必ず離脱症状が出ますか?
いいえ、必ず出るわけではありません。薬の種類や、減量のスピード、個人の体質によって変わります。フルオキセチンのように半減期の長い薬なら、急にやめても症状が出ない人もいます。しかし、パロキセチンやベンラファキシンのような短半減期薬では、9割近くの人が何らかの症状を経験します。減量の仕方が最も大きな影響を与えます。
減量中にうつが悪化した気がします。再発ですか?
それは離脱症状の可能性が高いです。うつの再発は、気分の落ち込みや無気力、自己否定が徐々に強くなるのが特徴です。一方、離脱症状はめまい、電気ショック感、吐き気、不眠など、体の症状が中心です。症状が出てから2~3日経っても改善しない、または日に日に悪化するなら、医師に相談してください。多くの場合、減量ペースを少し緩めると、1週間以内に良くなります。
液体の抗うつ薬はどこで手に入れられますか?
日本では、液体製剤はすべての薬で使えるわけではありません。セルトラリンやシタロプラムには、処方箋薬局で作成可能な液体製剤があります。医師に「減量のための液体製剤を希望します」と伝えて、処方を依頼してください。市販の液体薬は存在せず、医療機関を通じてのみ入手できます。
減量にどれくらいの時間がかかりますか?
一般的には、2~12週間です。短半減期薬(例:パロキセチン)なら4~8週間、長半減期薬(例:フルオキセチン)なら2~4週間が目安です。長期使用(5年以上)の場合は、12週間以上かけても問題ありません。早く終わらせようとするより、体の反応に合わせて進めることが、再発を防ぐコツです。
減量中にアルコールを飲んでも大丈夫ですか?
できるだけ控えてください。アルコールは脳の神経伝達を乱し、離脱症状を悪化させる可能性があります。特にめまいや不眠が起きているときは、アルコールが症状を強める原因になります。減量期間中は、体を守るためにも、アルコールを避けるのが最善です。