オピオイド過剰摂取:徴候、緊急対応、ナロキソンの使用方法

オピオイド過剰摂取:徴候、緊急対応、ナロキソンの使用方法

オピオイド過剰摂取緊急対応ツール

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オピオイド過剰摂取は、命に関わる緊急事態です。オピオイドが脳の呼吸を制御する部分に作用し、呼吸が極端に遅くなったり、完全に止まったりする状態です。この状態が続くと、数分以内に脳に酸素が届かなくなり、脳損傷や死亡につながります。2023年には米国だけで、薬物過剰摂取による死亡が10万7941件あり、そのうち約81%がオピオイド関連でした。特に、フェンタニルのような合成オピオイドの蔓延により、死亡数は過去最高を記録しています。

オピオイド過剰摂取の主な徴候

オピオイド過剰摂取の兆候は、すぐに気づけば命を救える可能性があります。最も典型的な3つの徴候は、瞳孔の縮小(点瞳)反応なし(意識喪失)呼吸の遅さや停止です。しかし、すべてのケースでこの3つが揃うわけではありません。

  • 声をかけても、体を揺すっても反応がない
  • 唇や指先が青や紫、灰色に変色している(酸素不足によるチアノーゼ)
  • 皮膚が冷たく、湿っている
  • 呼吸が極端に浅い、または全くない
  • 喉からゴボゴボ、グーグーという音がする(気道に液体がたまっている可能性)
  • 極度に眠たそうにしている、または目を閉じたまま起きられない
  • 体がぐったりと柔らかく、力が入っていない

特に注意すべきは、フェンタニルやコカインに混ぜられた偽薬です。薬局で売られている「アダパレン」や「アドラリール」と思われていた錠剤が、実際にはフェンタニルだったというケースが増えています。このような薬は、使用者本人すら何が入っているかわかりません。そのため、誰でも、どんな薬でも、過剰摂取のリスクがあると認識する必要があります。

ナロキソンとは?その仕組みと効果

ナロキソン(商品名:ナルカン)は、オピオイド過剰摂取の緊急治療薬です。この薬は、脳のオピオイド受容体に結合して、オピオイドを押しのけ、呼吸を再開させる働きをします。ナロキソンは、オピオイドを摂取していない人には全く影響を与えません。つまり、「もしかしたら過剰摂取かも?」という疑いがあれば、迷わず使います。

ナロキソンは、鼻から吹き込むタイプ(intranasal)と、筋肉に打つタイプ(intramuscular)が一般向けに広く使われています。鼻から使うタイプは、誰でも簡単に使えます。薬が効き始めるのは、注射や噴霧後2〜5分です。しかし、その効果は30〜90分しか持続しません。一方で、オピオイドの効果は数時間続くことがあります。そのため、ナロキソンを打っても、その場を離れてはいけません。効果が切れたあと、再び呼吸が止まる可能性があるからです。場合によっては、2回、3回とナロキソンを追加で使う必要もあります。

2023年現在、ナロキソンの価格は、2年前まで1セット130ドル以上だったのが、現在は25〜50ドル程度に下がりました。多くの州で、薬局で医師の処方なしに購入できるようになっています。49の州が、一般の人々がナロキソンを手に入れられる法律を制定しています。

抽象的超現実的なイラスト:ナロキソン噴霧と偽薬の手、呼吸する肺の形の煙、暗い都市の背景

緊急時の対応ステップ:3つの行動

誰かがオピオイド過剰摂取の兆候を示している場合、行動を起こすのが遅ければ、命を落とす可能性があります。次の3つのステップを、必ず守ってください。

  1. すぐに119番する:救急車を呼ぶのが最優先です。電話をかけながら、次の行動を始めても構いません。
  2. ナロキソンを使う:手元にあれば、直ちに使用します。鼻から吹き込むタイプなら、片方の鼻にスプレーを1回、もう片方に1回吹き込みます。注射タイプなら、太ももの外側や上腕に打ちます。
  3. 救急車が来るまで付き添う:ナロキソンを打っても、相手が目を覚ますまでずっとそばにいてください。呼吸が再開しても、再発のリスクがあります。体を横向きに寝かせて、気道が詰まらないようにしましょう。

救急隊員が到着するまで、相手の呼吸を確認し続けます。もし呼吸が止まっていたら、心肺蘇生(CPR)を始めましょう。胸骨圧迫(心臓マッサージ)だけでも、酸素を体に送るのに十分な効果があります。口対口の人工呼吸は、感染リスクがあるため、必要なければ省いても構いません。

過剰摂取後の対応:命を救った後も大事

ナロキソンで意識が戻り、呼吸が再開したとしても、まだ安心できません。オピオイド過剰摂取は、脳や肺、心臓にダメージを与えることがあります。たとえ一時的に回復しても、必ず病院へ連れていく必要があります。

病院では、以下のようなチェックが行われます:

  • 脳の酸素不足による損傷の有無
  • 肺の感染や浮腫
  • 心臓の不整脈
  • 他の薬物との併用の可能性

また、過剰摂取の原因が依存症や精神的苦痛にある場合、その後のケアが重要です。医療チームと連携して、薬物使用障害の治療プログラムやカウンセリング、メンタルヘルス支援につなげることが、再発を防ぐ鍵になります。

抽象的超現実的なイラスト:ナロキソンで蘇った人物の透ける体、内臓が可視化され、救急隊員が糸でできた担架を運ぶ

予防のための実践的なヒント

オピオイド過剰摂取は、誰にでも起こり得ます。薬物依存者だけの問題ではありません。処方薬の過剰使用、誤って服用、偽薬の混入、そして孤独による自己投与の増加--すべてがリスクです。

  • ナロキソンを常備する:家族や友人にオピオイドを服用している人がいれば、家に1セット置いておきましょう。使い方は簡単で、1分で覚えられます。
  • フェンタニル検出ストリップを使う:薬を摂取する前に、その薬にフェンタニルが含まれているか確認できます。価格は1本数十円で、ネットや薬局で手に入ります。
  • 一人で薬を飲まない:誰かと一緒なら、万が一の時に助けてくれる人がいます。これは、命を守るためのシンプルなルールです。
  • 教育と訓練を受ける:地域の保健所やNPOが開催する「過剰摂取対応講習」に参加しましょう。実際の訓練では、人形を使ってナロキソンの使い方を練習します。

2022年の研究では、ナロキソンを地域に配布したコミュニティでは、オピオイド過剰摂取による死亡率が14%低下したことが確認されています。つまり、一人ひとりが行動を起こせば、命を救えるのです。

ナロキソンは誰でも使えるのですか?

はい、誰でも使えます。ナロキソンは医師の処方がなくても薬局で購入可能で、使い方は非常に簡単です。鼻にスプレーを吹き込むだけのタイプが主流で、説明書に従えば、訓練を受けたことがなくても正しく使えます。オピオイドを摂取していない人には効果がなく、安全です。疑わしい場合は、迷わず使います。

ナロキソンを打った後、すぐに病院に行かなくてもいいですか?

いいえ、必ず病院へ行ってください。ナロキソンの効果は30〜90分程度で切れる一方、オピオイドの効果は数時間続きます。そのため、ナロキソンの効果が切れたあとに、再び呼吸が止まる「再発」のリスクがあります。また、脳や肺、心臓にダメージが残っている可能性もあるため、医師による検査が必要です。

フェンタニルはなぜ危険なのですか?

フェンタニルは、モルヒネの50〜100倍の強さを持つ合成オピオイドです。少量でも呼吸を完全に止める可能性があります。また、偽薬としてコカインやアドラリールに混ぜられて販売されることが多く、使用者本人が何を摂取したかわからない状態です。これが、近年の過剰摂取死亡の急増の主な原因です。

ナロキソンを打つと、相手が怒ったり暴力を振るったりしますか?

一部の人々は、ナロキソンで急に目覚めたときに、体の不快感や痛み、不安から反応が激しくなることがあります。しかし、これは一時的な反応であり、命を救うための必要なリスクです。暴力的になる可能性はありますが、その危険は、呼吸停止で死ぬリスクよりもずっと小さいです。状況を落ち着かせるために、相手を落ち着かせ、安全な場所に移すことが重要です。

オピオイドを処方されている人でも、ナロキソンは必要ですか?

はい、必要です。処方薬でも、用量の誤り、他の薬との相互作用、または耐性の変化によって過剰摂取は起こります。特に高齢者や、他の鎮痛薬と併用している人はリスクが高いです。医師の指示に従っていても、予期せぬ状況は起こり得ます。ナロキソンは、命を守るための備えとして、処方されている人にも推奨されています。

次に何をすべきか?

あなたがナロキソンを手に入れたなら、今すぐ家族や友人に共有しましょう。訓練を受けるなら、地域の保健センターやNPOの講習に参加してください。ナロキソンは、薬ではなく「救命装置」です。誰かの命を救うために、あなたの行動が、たった一つのスプレーで変わるかもしれません。

長谷川寛

著者について

長谷川寛

私は製薬業界で働いており、日々の研究や新薬の開発に携わっています。薬や疾患、サプリメントについて調べるのが好きで、その知識を記事として発信しています。健康を支える視点で、みなさんに役立つ情報を届けることを心がけています。