プロバイオティクスは、腸の健康を支えるために多くの人が摂取しているサプリメントです。でも、本当に効果があるのでしょうか?それともただの流行でしょうか?答えは、プロバイオティクスの種類と使う目的によって大きく変わります。
プロバイオティクスとは何か?
プロバイオティクスとは、適切な量を摂取することで体に健康上の利益をもたらす生きた微生物のことです。国際科学協会(ISAPP)は2014年にこの定義を確立しました。昔からヨーグルトや漬物など発酵食品に含まれる菌が体に良いとされてきましたが、現代の研究では、単に「乳酸菌」という言葉ではなく、どの菌株(ストレイン)が、どんな状況で、どれだけの量で効くかが重要だとわかっています。
例えば、Lactobacillus rhamnosus GG(通称LGG)という菌株は、子供の急性感染性下痢を約36%減らす効果が複数の臨床試験で確認されています。一方で、別の菌株ではまったく効果がないこともよくあります。だから、パッケージに「乳酸菌配合」と書いてあっても、それが何の菌で、何個入っているかを見ないと意味がありません。
効果があるのはどんな場合?
プロバイオティクスの効果が最も明確に証明されているのは、抗生物質関連の下痢と、子供の急性感染性下痢です。
抗生物質を飲むと、悪い菌だけでなく、腸の良い菌も殺されてしまいます。その結果、下痢が起きることがよくあります。研究によると、LGGやSaccharomyces boulardiiという菌株を、抗生物質と2時間以上あけて摂取し、抗生物質の治療が終わってから1〜2週間続けた場合、下痢のリスクが22.4%から12.3%にまで減りました。これは、10人中2人以上が下痢を防げたということです。
子供のウイルス性下痢でも、同じように効果があります。82件の臨床試験をまとめたコクランレビューでは、プロバイオティクスを飲んだ子供の下痢が48時間以上続く確率が36%も低くなりました。効果が出るまでには数日かかりますが、症状が軽くなり、回復が早まるのは明らかです。
効果が薄いのはどんな場合?
プロバイオティクスが効かないケースもあります。特に、過敏性腸症候群(IBS)では、結果がバラバラです。一部の研究ではお腹の張りや痛みが軽減されたという報告がありますが、他の研究では効果がなかったと出ています。これは、IBSの原因が人によって違うため、同じ菌株が全員に効くわけではないからです。
また、クローン病には、プロバイオティクスの効果はほとんど見られません。一方、潰瘍性大腸炎では、特定の菌株(例:VSL#3)が炎症を少し抑える可能性があると、アメリカ消化器病学会(AGA)は2020年に結論づけています。でも、これは「治す」ものではなく、「症状を軽くする」補助的な役割にすぎません。
菌株と量がすべてを決める
プロバイオティクスの効果は、菌の種類と量で決まります。菌株は、同じ名前でも違う働きをします。たとえば、Lactobacillus acidophilusという名前でも、LA-1、NCFM、DDS-1、SBT-2026といった菌株はそれぞれ異なる効果を持っています。
効果が出るための量も重要です。LGGの場合、1日あたり100億個(10^10 CFU)以上が必要です。でも、市販の製品の中には、ラベルに書いてある量よりもずっと少ない菌しか入っていないものも少なくありません。2019年のConsumerLabの検査では、30%の製品が表示量を満たしていませんでした。
だから、信頼できるブランドを選ぶのが大事です。USPやNSF Internationalなどの第三者機関が認証した製品なら、成分と量がきちんと検査されている可能性が高いです。また、効果が確認されている菌株が明記されているか、どれだけのCFUが含まれているかを必ずチェックしましょう。
飲み方と注意点
プロバイオティクスを飲むタイミングも重要です。抗生物質と同時に飲むと、薬の効果で菌が死んでしまいます。必ず、抗生物質を飲んでから2時間以上あけてから摂取してください。そして、抗生物質の治療が終わっても、最低1週間は継続しましょう。
最初の数日間、ガスが出たり、お腹が張ったりすることがあります。これは、腸内に新しい菌が入ってきたときに、古い菌と戦っているサインです。ほとんどの人は1週間以内に慣れます。でも、もし症状がひどいまま続くなら、やめて医師に相談してください。
また、免疫が弱っている人(がんの化学療法中、臓器移植後、HIV感染者など)は、プロバイオティクスで感染症を起こすリスクがあります。こうした人は、医師の許可なしに摂取してはいけません。
保存方法と製品選び
プロバイオティクスは、生きている菌なので、保存方法が重要です。一部の製品(例:VSL#3)は冷蔵が必要です。一方、Saccharomyces boulardiiのような酵母系は、常温でも大丈夫です。
パッケージに「冷蔵保存」と書いてあれば、冷蔵庫に入れましょう。そうでないと、菌が死んでしまい、効果がなくなります。また、製品の有効期限も確認してください。期限切れの製品は、菌が死んでいる可能性が高いです。
市場と今後の方向性
2022年の世界のプロバイオティクス市場は502億ドル(約7兆円)に達し、2030年には891億ドル(約13兆円)に成長すると予測されています。日本でも、ヨーグルトやドリンク、サプリメントとして広く使われています。
今後のトレンドは「パーソナライズドプロバイオティクス」です。自分の腸内細菌の状態を検査して、それに合った菌を個別に提案するサービス(例:Viome、Thryve)が登場しています。今後は、誰にでも同じ菌を勧めるのではなく、個人の腸内環境に合わせた治療が主流になるでしょう。
まとめ:プロバイオティクスは「万能薬」ではない
プロバイオティクスは、特定の状況ではとても役立ちます。抗生物質で下痢になったとき、子供がウイルス性の下痢を起こしたとき、それらには明確な科学的根拠があります。
でも、毎日飲んで「腸をきれいにする」ための万能薬ではありません。効果がないと感じた人も多くいます。それは、菌株が合っていなかったり、量が足りなかったり、目的が違っていたりするからです。
使うなら、
- 効果が証明されている菌株(LGG、S. boulardiiなど)を選ぶ
- 1日あたり100億個以上のCFUが含まれているか確認する
- 第三者認証(USP、NSF)のついた信頼できるブランドを選ぶ
- 抗生物質と2時間以上あけて飲む
- 効果が出ていないなら、2〜8週間は継続して様子を見る
- 免疫が弱い人は医師に相談する
プロバイオティクスは、体の自然なバランスを助ける「補助ツール」です。食事や睡眠、ストレス管理と組み合わせてこそ、本当の力を発揮します。
プロバイオティクスは毎日飲むべきですか?
毎日飲む必要はありません。抗生物質を飲んでいるときや、下痢の症状があるときなど、特定の状況で使うのが効果的です。健康な人で特に症状がないなら、発酵食品(ヨーグルト、味噌、納豆)から菌を摂るだけで十分です。
プロバイオティクスとプレバイオティクスの違いは?
プロバイオティクスは「生きた菌」そのものです。プレバイオティクスは、その菌のエサになる食物繊維です。たとえば、バナナや玉ねぎ、にんにくに含まれるイヌリンがプレバイオティクスです。両方を一緒にとると、菌がよりよく働きます。これを「シンバイオティクス」といいます。
ヨーグルトを食べれば、プロバイオティクスサプリメントはいらない?
ヨーグルトに含まれる菌は、一般的に乳酸菌です。でも、効果が確認されている菌株(例:LGG)が含まれているとは限りません。また、ヨーグルト1個に含まれる菌の量は、臨床試験で使われた量(100億個以上)に達していないことが多いです。症状を改善したいなら、サプリメントの方が確実です。
プロバイオティクスで体重が減るって本当ですか?
一部の研究では、特定の菌株が代謝やインスリン感受性に影響を与える可能性があると報告されています。しかし、体重減少の効果はまだ確立されておらず、サプリメントを飲んで痩せるという主張は科学的根拠が不十分です。ダイエットの主な手段としては推奨されていません。
子供にプロバイオティクスを飲ませても大丈夫ですか?
はい、子供に与えるのは安全です。特に、抗生物質による下痢や急性感染性下痢の予防には、LGGやS. boulardiiが効果的です。ただし、乳製品アレルギーがある場合は、乳由来の製品に注意してください。粉末やドリンクタイプの製品を選ぶと、子供にも飲みやすいです。