長く続く病気の治療では、薬を毎日きちんと飲むことが命に関わります。でも、毎日同じ薬を飲むのは、実はとても大変なことです。薬の量が多い、副作用が怖い、お金がかかる、忘れてしまう--そんな理由で、薬を飲み忘れてしまう人が日本でも少なくありません。厚生労働省のデータでは、慢性疾患の患者の約4割が、処方された通りに薬を飲めていないとされています。でも、薬をちゃんと飲むための方法は、実は誰にでも使える具体的なテクニックがあります。
薬を飲み続けるための最も効果的な方法
研究によると、薬をきちんと飲むために最も効果的なのは、「問題解決型の対処」です。これは、薬を飲めない理由を一つ一つ見つけて、それに合わせて対策を立てるという方法です。例えば、朝の薬を飲み忘れてしまうなら、歯を磨くときとセットで飲むようにする。薬が多すぎて混乱するなら、薬局で1日分を小分けにしてもらう。これらはどれも、自分でできることです。
この方法は、研究で78%の患者で効果があったと報告されています。つまり、10人中8人は、自分の生活に合わせて工夫することで、薬を飲み続けることができるのです。薬を飲むのが面倒だと感じるとき、その理由を紙に書き出してみてください。『時間がない』?『薬の名前が覚えられない』?『副作用が怖い』? その理由ごとに、簡単な解決策を1つずつ作っていきましょう。
気持ちの面でつらくなったときの対処法
薬を長く飲み続けると、次第に「また同じ薬?」と気持ちが沈むことがあります。それは、病気と付き合い続けることへの疲れです。そんなときには、「感情に向き合う」対処法が役立ちます。
例えば、日記をつける。今日、薬を飲んでどう感じたか、どんなことが辛かったかを、1行でもいいので書く。あるいは、家族や友達に「今日は薬を飲むのがつらかった」と話す。薬を飲むことが「自分を守る行動」だと認識できれば、気持ちが少し楽になります。
この方法は、研究で69%の患者で効果がありました。特に、関節リウマチの患者では、自分を励ます言葉を繰り返す(「私は頑張ってる」「この薬が私の体を守ってる」)ことで、薬を飲み続ける割合が高くなりました。感情を押し殺すのではなく、認めること。それが、長く続けるための鍵です。
薬の飲み方をシンプルにする方法
薬が多すぎて、どれをいつ飲むかわからなくなる--これは、多くの患者が直面する現実です。でも、薬の数を減らすことは、医師と相談すれば可能です。
例えば、1日に3回飲んでいた薬を、1回にまとめられる「複合薬」に変更できないか。または、朝と夜の薬を1回にまとめて、1日2回に減らす方法。薬局の薬剤師に「薬の数を減らす方法はありますか?」と聞いてみてください。日本では、薬剤師が患者の薬のリストをチェックし、重複や無駄を省く「薬物療法の見直し」を実施する制度が広がっています。
また、薬の服用を忘れないようにするためには、薬箱を使うのがおすすめです。1週間分を1つの箱に分けて入れるタイプの薬箱なら、どの薬をいつ飲んだか一目でわかります。スマホのアラームを設定するのも効果的です。朝7時、夕方6時--その時間に「薬を飲んでね」と音が鳴るようにしておけば、習慣になります。
周りの人に頼ることの大切さ
「一人で頑張らなきゃ」と思っていると、心が疲れてしまいます。でも、薬を飲み続けるのは、一人で背負うべき責任ではありません。
家族に「毎晩、薬の時間を一緒にしてほしい」と頼んでみる。あるいは、地域の保健師や薬剤師に「薬の飲み方を確認してほしい」と依頼する。日本では、在宅医療支援センターが、高齢者や慢性疾患の患者の薬の管理をサポートするサービスを提供しています。薬を飲むのが不安なら、その不安を誰かに伝えるだけで、心の負担は大きく軽くなります。
研究では、薬剤師と医師がチームになって患者をサポートした場合、薬を飲み続ける割合が74%から89%に上がりました。これは、薬の飲み方をただ教えるだけでなく、患者の気持ちに寄り添い、一緒に解決策を見つけるからです。
お金の問題と薬の負担を減らす方法
薬の費用が高くて、飲みたくても飲めない--これは、日本でも深刻な問題です。特に、高額な新薬や、ジェネリックが使えない薬の場合、月に数万円かかることもあります。
でも、薬の費用を減らす方法はいくつかあります。まず、ジェネリック医薬品(後発医薬品)に変更できないか、医師に相談してください。ジェネリックは、効果は同じで、価格が半分以下になることが多いです。また、高額医療費制度や、医療費控除の申請を忘れずに。市役所や区役所には、医療費の補助制度がある場合があります。
薬局では、薬剤師に「薬の費用を減らす方法はありますか?」と聞くだけで、助成金の情報や、薬の購入支援プログラムを教えてくれます。例えば、薬の代金を一部負担してくれる「RxAssist.org」のようなサービスも、日本では医療支援団体が類似の制度を運営しています。
なぜ薬を飲まないと危険なのか
「たまに飲み忘れても、大丈夫だろう」と思ってしまう人がいます。でも、慢性疾患の薬は、1日や2日飲まないだけで、体に大きな影響が出ます。
高血圧の薬を飲まないと、脳梗塞や心臓病のリスクが急に上がります。糖尿病の薬を忘れると、血糖値が急上昇し、入院が必要になることもあります。薬を飲み忘れたことが原因で、日本では年間数十万人が病状を悪化させ、医療費が1兆円以上無駄になっているという推計もあります。
薬を飲むことは、病気を治すためではありません。病気の進行を止め、日常生活を守るための「予防」です。薬を飲むことは、体を守る「習慣」。だから、たとえ気分が悪い日でも、薬を飲むことをやめないことが、本当の意味での「強い人」です。
薬を飲み続けるための3つのルール
- 理由を書き出す:薬を飲めない理由を1つずつリストアップして、対策を考える
- シンプルにする:薬の数や服用回数を減らすよう、医師や薬剤師に相談する
- 頼る:家族、薬剤師、保健師--誰かに「薬のことを話す」ことをやめない
これらの方法は、どれも特別な技術ではありません。でも、毎日続けることで、薬を飲むことが「負担」から「自分を守る行動」に変わります。
薬を飲むのがつらいと感じたら、それはあなたのせいじゃない
薬を飲み忘れたからといって、自分を責めないでください。薬を長く飲み続けることは、誰にとっても難しいことです。研究では、年齢や性別、収入、病気の期間など、薬の飲み方には多くの影響因素があります。女性の方が薬を飲み続ける傾向が高いというデータもあります。それは、単に「頑張っている」からではなく、社会的な支援や、感情の表現の仕方が違うからです。
あなたが薬を飲むのがつらいと感じるのは、あなたの弱さではありません。それは、病気と長く向き合うことの、当然の反応です。だからこそ、自分一人で抱え込まず、誰かに話すことが、一番の治療になります。
薬を飲み忘れたときはどうすればいいですか?
薬の種類によって対応が異なります。例えば、高血圧や糖尿病の薬は、1日分を飲み忘れても、直後に飲むと危険な場合があります。必ず薬の説明書を確認し、わからない場合は薬剤師に電話で確認してください。基本的には、飲む時間から12時間以内なら飲んでも大丈夫な場合が多いですが、絶対に自己判断はしないでください。
薬の副作用が怖いのですが、どうすればいいですか?
副作用は、薬を飲み始めて最初の数週間で多く現れます。そのうち、7割以上は自然に治まります。でも、強い吐き気、めまい、皮膚のかゆみ、呼吸が苦しいなどの症状が出たら、すぐに医師に連絡してください。副作用を恐れて薬をやめるよりも、医師と相談して、薬の種類や量を調整する方が安全です。
薬を減らすことはできますか?
病気の状態が安定している場合、医師は薬の量を減らしたり、種類を減らしたりすることがあります。でも、勝手に減らすのは危険です。必ず医師と相談し、血液検査や血圧測定などのチェックをしながら、段階的に減らす必要があります。
薬の費用を減らす方法はありますか?
ジェネリック医薬品に変更する、高額医療費制度の適用を受ける、市町村の医療費助成制度を利用する、薬剤師に薬の購入支援プログラムを紹介してもらう--これらはすべて実際に行われている方法です。薬局の薬剤師に「薬の費用を安くする方法」を聞いてみてください。
薬を飲み続けるのがつらいとき、誰に相談すればいいですか?
まずは、かかりつけの薬剤師に相談してください。薬剤師は、薬の飲み方、副作用、費用の問題について、医師よりも詳しく知っています。また、地域の保健センターや在宅医療支援センターでも、薬の管理や生活のサポートを受けることができます。一人で抱え込まないで、誰かに「つらい」と伝えることが、第一歩です。