IVIVCとバイオ等価性の免除:体外試験で体内試験を置き換える方法

IVIVCとバイオ等価性の免除:体外試験で体内試験を置き換える方法

IVIVCは、薬物の体外溶解特性と体内での吸収反応を数式で結びつける科学的モデルです。これにより、人間を対象とした高コストで時間がかかる体内試験(in-vivo)を、実験室での溶解試験(in-vitro)で代替できる可能性があります。この技術は、ジェネリック医薬品の開発を大幅に効率化し、開発期間を6〜12ヶ月短縮し、1件あたり100万〜200万ドルのコスト削減を実現する可能性があります。

IVIVCとは何か?

IVIVC(In Vitro-In Vivo Correlation)とは、薬品が体外でどれだけ早く溶けるかというデータと、その薬品が体内でどれだけ吸収され、血液中にどれだけ現れるかという反応を、数学的に結びつけることです。たとえば、ある錠剤が1時間後に70%溶けるなら、その薬はどのくらいの濃度で血液中に現れるかを予測できるようになります。

このモデルは、1996年に米国FDAが初めて公式に導入しました。それ以来、特に持続放出製剤(ER製剤)の開発で、臨床試験の代わりに使えるかどうかが注目されてきました。FDAは2014年にこのガイドラインを改訂し、IVIVCが承認されるための基準を明確にしました。

IVIVCは、4つのレベルに分類されます。最も信頼性が高いのはレベルAで、体外溶解の各時間点と体内濃度の各時間点が正確に一致するモデルです。R²値が0.95以上、傾きが1.0に近く、切片がほぼ0であれば、このモデルは承認されやすいです。レベルAがあれば、薬の血中濃度曲線全体を溶解データから予測できます。

レベルCは、単一の時間点(例:1時間後の溶解率)と単一の薬物動態パラメータ(例:CmaxやAUC)だけを結びつけるものです。これは比較的簡単に作れますが、予測精度は限られます。FDAは、バイオワイバー(体内試験免除)の申請では、レベルAが望ましいと明言しています。

なぜIVIVCが必要なのか?

従来のバイオ等価性試験では、24〜36人の健康な成人に薬を飲んでもらい、数時間ごとに血液を採取して濃度を測定します。この試験1件あたりのコストは50万〜200万ドル、期間は2〜4ヶ月かかります。ジェネリックメーカーは、製品の微細な変更(製造工程の変更や、添加物の少量変更)ごとにこの試験を繰り返さなければならず、開発コストが膨らみます。

IVIVCがあれば、そのような変更に対して「溶解プロファイルが同じなら、体内反応も同じ」と証明できれば、体内試験を免除できます。FDAのSUPAC-MRガイドラインでは、IVIVCが承認されている製品に対して、製造工程のスケールアップや、非重要添加物の±5%以内の変更について、バイオ等価性試験の免除を認めています。

例えば、テバ社は持続放出オキシコドンのジェネリックを開発する際、IVIVCモデルの構築に14ヶ月かかりましたが、その結果、5件の体内試験を免除でき、総額で1000万ドル以上のコストを削減しました。

IVIVCの限界と失敗の理由

しかし、IVIVCは万能ではありません。2022年のFDAのレビューでは、127件のIVIVC申請のうち64%が「溶解条件が生理的実態を反映していない」として却下されました。つまり、実験室で水で薬を溶かしても、胃や腸の中では胆汁やpHの変化が起き、溶解挙動がまったく異なるからです。

これを解決するため、生体関連溶解試験(biorelevant dissolution)が推奨されています。これは、胃液や腸液に近いpH(1.2〜6.8)と、胆汁酸やリン脂質を含む溶液を使って溶解試験を行う方法です。メリーランド大学の研究では、この方法で、従来の水溶液試験よりも体内反応の予測精度が30%向上したと報告されています。

また、多くの企業が失敗するのは、製品の「製剤空間」が足りないからです。つまり、異なる溶解速度を持つ複数の製剤(例:速く溶けるもの、ゆっくり溶けるもの)を複数作って、そのデータをもとにモデルを構築する必要があります。しかし、多くの企業は、2〜3種類の製剤しか作らず、データが不足しているのです。

さらに、薬の吸収が非線形(体内で濃度が高くなると吸収が飽和する)だったり、治療指数が狭い(効果と毒性の差が小さい)薬では、IVIVCは適用できません。そのような薬は、必ず体内試験が必要です。

生体関連溶解試験と失敗した試験を対比する、消化管と工場を描いた超現実的な風景。

IVIVCが使えるのはどんな薬?

IVIVCは、持続放出製剤に最も有効です。例えば、1日1回の高血圧薬や、慢性的な痛みを和らげるためのオピオイド製剤など、長時間にわたって血中濃度を安定させる薬です。このような製品は、単純な溶解試験では品質を評価できず、IVIVCが唯一の科学的根拠になります。

一方、即効性製剤(IR製剤)では、BCS分類(Biopharmaceutics Classification System)がより簡単なバイオワイバーの道です。BCSでは、薬物の水溶性と透過性の2つの特性で分類し、Class I(水に溶けやすく、腸壁を通りやすい)の薬は、体内試験なしでジェネリックを認可できます。

しかし、BCSは持続放出製剤には適用できません。なぜなら、製剤の設計が吸収に大きな影響を与えるからです。IVIVCは、BCSが使えない領域で唯一の選択肢なのです。

IVIVCの実用化はどれくらい進んでいるか?

2022年の調査では、ジェネリックメーカーの68%がIVIVCの開発を試みましたが、最初の申請で承認されたのはわずか29%でした。主な失敗原因は、溶解試験方法が不十分(63%)、製剤のバリエーションが少なすぎる(74%)、そしてモデルの検証が不十分(68%)です。

一方で、専門のCRO(契約研究機関)に依頼した企業の成功率は60〜70%に達します。これは、IVIVCが高度な専門知識を必要とする証拠です。薬学の修士号を持ち、2〜3年間の実務経験がある人でなければ、信頼できるモデルは作れません。

FDAの2022年データでは、IVIVCを用いたバイオワイバーの承認率は、持続放出経口製剤で58%、複雑な注射剤で32%、眼薬で19%と、製品の複雑さに比例して低下しています。

AIがIVIVCモデルを分析し、薬剤タイプごとに予測する未来の科学的ビジョン。

将来の動向:AIとグローバルな標準化

2024年のFDAとEMAの共同ワークショップでは、機械学習を用いたIVIVCモデルの可能性が議論されました。従来の線形回帰ではなく、複雑なデータパターンを学習するAIモデルが、より正確な予測を可能にするという期待があります。

また、FDAは2023年6月、外用薬(クリームや軟膏)に対するIVIVCのガイドライン草案を公開しました。これは、IVIVCが経口薬にとどまらず、注射剤やインプラント、眼薬などにも広がる可能性を示しています。

今後5年で、IVIVCを活用したバイオワイバーは、すべての持続放出ジェネリック承認の35〜40%を占めるようになると、マッキンゼーは予測しています。これは、2022年の22%から大きく上昇する数字です。

一方で、EMAは2020年に、IVIVCモデルが「複数の生理的条件」で安定性を示す必要があると明言しています。つまり、単に実験室でうまくいったからといって、患者の体の中で同じように働くとは限らないのです。

IVIVCを使うべき企業は?

IVIVCは、大手ジェネリックメーカー(テバ、サンドーズ、スンファーマ、ルピン)にしか向いていません。なぜなら、開発には数千万円の投資と、専門のチームが必要だからです。

中小企業や新規参入者は、BCS分類や単純な溶解試験で対応するべきです。IVIVCは、複雑な製品を大量に開発する企業のための「戦略的武器」です。無理に導入しても、時間とお金の無駄になります。

IVIVCは、単なる技術ではなく、薬の「体内での動き」を理解する哲学です。溶解試験は、単に「薬が溶けるか」を確認するのではなく、「薬がどう吸収されるか」を予測する道具なのです。

今、世界のジェネリック市場は、安さではなく、科学的信頼性で競争しています。IVIVCは、その競争の中心にいる技術です。

IVIVCはすべての薬に使えるのですか?

いいえ。IVIVCは、持続放出製剤や複雑な製剤に主に適用されます。即効性製剤ではBCS分類が使われ、治療指数が狭い薬(例:ワルファリン、リチウム)や、非線形吸収の薬では、IVIVCは認められません。体内試験が必須です。

IVIVCの開発にはどれくらいの時間とお金がかかりますか?

レベルAのIVIVCを開発するには、平均12〜18ヶ月かかります。コストは500万〜1500万ドル程度です。この費用は、その後のバイオ等価性試験を数件免除できるため、長期的には利益になります。ただし、モデルが失敗すると、すべての投資が無駄になります。

IVIVCとBCS分類の違いは何ですか?

BCSは、薬物の水溶性と透過性の2つの性質だけで、バイオ等価性を判断します。これは即効性製剤に有効です。IVIVCは、製剤の溶解速度と体内吸収の関係を詳細にモデル化します。これは、持続放出製剤や複雑な形態の薬にしか使えません。BCSは簡単ですが、IVIVCは正確です。

IVIVCが承認されない主な理由は何ですか?

主な理由は3つです。1)溶解試験が生理的条件(胃液や胆汁)を再現していない、2)異なる溶解速度の製剤を十分に作っていない、3)モデルの検証が不十分で、予測精度が±10%以内に収まっていないことです。FDAは、これらの点を厳しく審査します。

日本ではIVIVCは使われていますか?

日本でも、厚生労働省はIVIVCのガイドラインを整備していますが、実際の適用はまだ限られています。大手製薬会社や、欧米市場向けのジェネリック開発を手がける企業では導入が進んでいます。しかし、国内市場向けの製品では、BCSや単純な溶解試験が主流です。今後、複雑な製剤の開発が増えるにつれて、IVIVCの需要は高まると予想されます。

長谷川寛

著者について

長谷川寛

私は製薬業界で働いており、日々の研究や新薬の開発に携わっています。薬や疾患、サプリメントについて調べるのが好きで、その知識を記事として発信しています。健康を支える視点で、みなさんに役立つ情報を届けることを心がけています。