髄膜炎の種類、症状、予防ワクチンについて

髄膜炎の種類、症状、予防ワクチンについて

髄膜炎とは何か

髄膜炎は、脳と脊髄を包む髄膜という膜に炎症が起きる病気です。この炎症は、ウイルスや細菌、カビ、寄生虫、または自己免疫疾患や薬の副作用など、さまざまな原因で起こります。特に細菌性髄膜炎は、数時間から一日で急激に悪化し、命に関わる可能性があります。世界保健機関(WHO)の2022年のデータによると、世界中で年間約120万人が細菌性髄膜炎にかかり、13万5千人が死亡しています。

日本では、細菌性髄膜炎の主な原因は肺炎球菌髄膜炎菌です。1990年代には、ヒブ(ヒト型インフルエンザ菌b型)が乳幼児の主な原因でしたが、ワクチンの導入で99%以上減少しました。今では、成人でも肺炎球菌による感染が増えています。ウイルス性髄膜炎は、全体の85%を占め、ほとんどがエンテロウイルスによるもので、軽い風邪のような症状で自然に治ります。

細菌性髄膜炎の症状

細菌性髄膜炎の典型的な症状は、高熱激しい頭痛首のこわばりの3つです。しかし、この3つがそろって現れるのは、実際には41%の患者にすぎません。70%以上の人は、このうち1つ以上は必ず出ます。

  • 38.5℃以上の高熱(86%の患者)
  • 頭全体に響く激しい頭痛(87%)
  • 首を前に倒すと痛くて動けない首のこわばり(70%)
  • 明るい光に耐えられなくなる光過敏(65%)
  • 吐き気や嘔吐(55%)

特に注意すべきは、赤い斑点や紫色の発疹です。これは、髄膜炎菌による感染の特徴で、指で押しても色が消えません。この発疹は、50~75%の患者に現れます。しかし、発疹がなくても細菌性髄膜炎である可能性は十分にあります。多くの人が「発疹がないから大丈夫」と思い、病院に行くのを遅らせます。実際、Redditの医療コミュニティでは、73%の医師が「発疹がないからと診断を遅らせた患者」を経験していると報告しています。

さらに、けいれん意識の混濁昏睡に至ることもあります。乳児では、高熱や嘔吐の代わりに、機嫌が悪い母乳を飲まない前囟門(おでこの柔らかい部分)が膨らむといった非特異的な症状が出ます。そのため、赤ちゃんの様子がいつもと違うと思ったら、すぐに医療機関を受診すべきです。

ウイルス性・カビ性・寄生虫性髄膜炎の違い

ウイルス性髄膜炎は、細菌性に比べて非常に軽いです。ほとんどの人が7~10日で自然に回復します。原因の70~85%はエンテロウイルスで、夏から秋にかけて流行します。手洗いやうがいをしっかりすれば、感染を防げます。

一方、カビ性髄膜炎は、免疫力が低下している人(がんの治療中、HIV感染者、ステロイド長期使用者など)にのみ発症します。主な原因はクリプトコッカス・ネオフォルマンスで、日本では年間数十例とまれですが、死亡率は非常に高いです。肺から脳に感染するのが一般的で、数週間かけてゆっくり進行します。

寄生虫性髄膜炎は、東南アジアや太平洋諸島でまれに見られます。原因はアンギオストロングリルス・カントネンシスという寄生虫で、生のタコやカタツムリを食べることで感染します。日本では極めて稀ですが、海外旅行後に発症するケースがあります。

また、非感染性髄膜炎は、関節リウマチや薬(抗けいれん薬、抗菌薬など)、がんの転移などが原因で起こります。これは、感染とは無関係な体の反応で、治療は原因を突き止めて対処することが重要です。

診断はどう行われるか

髄膜炎の診断は、脳脊髄液検査(腰椎穿刺)が必須です。背中の脊髄の周囲から少量の液体を抜き取り、白血球の数や糖、たんぱく質の値を調べます。

  • 細菌性:白血球1,000以上、糖45mg/dL未満、たんぱく質100mg/dL以上
  • ウイルス性:白血球10~1,000、糖とたんぱく質はほぼ正常

血液検査では、細菌性の場合は75~85%で血液中に菌が検出されます。また、CTやMRIで脳に腫瘍や水腫がないかも確認します。診断が遅れると、死亡率が急上昇します。米国CDCのデータでは、診断が4時間以上遅れると、死亡率は5%から21%に跳ね上がります。

頭蓋骨の内側に嵐が広がり、発疹や発熱が象徴的に描かれた surreal な構図。

ワクチンで予防できるのはどれか

現在、日本ではヒブワクチン肺炎球菌ワクチン髄膜炎菌ワクチンが公的接種として提供されています。これらは、細菌性髄膜炎の90%以上を防ぐことができます。

ヒブワクチンは、生後2か月から接種できます。日本では2013年から定期接種となり、それ以前は年間数百例あったヒブ髄膜炎が、現在はほぼゼロになりました。

肺炎球菌ワクチン(PCV13)は、乳児期に4回接種します。65歳以上の高齢者にも1回接種が推奨されています。ワクチンは、10歳未満の子どもで80%以上の発症を防ぎます。

髄膜炎菌ワクチンは、MenACWYMenBの2種類があります。MenACWYは、11~12歳に1回、16歳で追加接種が推奨されています。これは、A、C、W、Yの4つの型を防ぎます。MenBは、16歳以上で、特に大学寮や軍隊のような集団生活をする人に推奨されます。日本では、MenBワクチンは2024年から公的接種の対象に加わる見込みです。

ワクチンの効果は非常に高く、米国では、ワクチン導入後、細菌性髄膜炎の発症が年間約1,000例減少しています。ワクチン接種後の副作用は、ほとんどが軽いものです。注射部位の痛みや、1~2日続く軽い発熱が2.3%の人に見られる程度です。

ワクチン以外の予防法

ワクチンが完璧な予防法ではありません。手洗い、うがい、マスクは、ウイルスや細菌の飛沫感染を防ぐ基本です。CDCの研究では、手洗いを徹底すると感染リスクが30~50%減ります。

また、食器や歯ブラシの共有は、髄膜炎菌の感染リスクを25%上げます。家族や恋人とキスをすることも、感染の原因になります。特に、髄膜炎菌は、鼻や喉に常在している人が多く、無症状のキャリアが感染源になることがあります。

妊婦さんは、リステリア菌による髄膜炎にも注意が必要です。生の肉や生乳製品(ナチュラルチーズなど)は避けて、肉は74℃以上で十分に加熱しましょう。

感染した人の周りの人への対応

髄膜炎菌に感染した人がいると、家族や同居人、学校のクラスメートなど、密接な接触者には、予防的な抗生物質を投与します。これにより、二次感染のリスクが1~5%から0.1%以下にまで下がります。

ただし、この予防投与は、接触後24時間以内に始める必要があります。時間が経つと効果が激減します。そのため、学校や職場で感染者が出た場合、保健所が即座に接触者を特定し、抗生物質(シプロフロキサシンやリファンピシン)を配布する仕組みが必要です。

日本では、この対応がまだ十分に整っていません。多くの場合、家族にしか通知されず、学校や職場全体に広がらないため、クラスターが広がるリスクがあります。

学校の廊下で無症状の感染者を囲む手洗いやワクチンの防護輪が浮かぶ抽象的シーン。

ワクチンの最新動向と今後の課題

2024年、WHOは、アフリカ向けに1回0.5ドルという低価格のMenACWYワクチン(MenFive)を承認しました。これは、アフリカの髄膜炎ベルト(セネガルからエチオピアにかけて)で、年間20万例あった流行を、2022年には3,000例以下に減らした功績の延長です。

一方、日本や米国では、MenBワクチンがすべての10代に推奨される方向に進んでいます。2023年の研究では、1人あたり5万ドルのコストで1年間の健康な生活を1年増やすことができると計算され、これは「コスト効果が高い」と判断されました。

しかし、課題もあります。肺炎球菌の一部は、抗生物質に耐性を獲得しています。2010年には15%だった耐性率が、2023年には32%に上昇しています。そのため、最初の治療では、より広い範囲の菌に効く抗生物質を使う必要があります。

また、新しいワクチンの開発も進んでいます。2024年3月に発表された研究では、すべての髄膜炎菌の型に効くユニバーサルワクチンが、第2相臨床試験で92%の有効性を示しました。これは、将来的にワクチンの種類を減らし、接種回数を減らす可能性があります。

患者と家族の声

アメリカの髄膜炎支援団体が2023年に1,200人の回復者を対象に調査したところ、68%が「診断が遅れた」と答えました。平均で38時間も待たされたのです。42%は、最初に「風邪」「偏頭痛」と誤診されました。

多くの親は、子供の症状を「ちょっと元気がないだけ」と思って、病院に行くのをためらったと後悔しています。63%の親が、「医師が私の懸念を軽視した」と語っています。

一方、ワクチンを打った親の97%は、「安心できた」「子供を守れた」と満足しています。副作用の心配は、ほんのわずかです。

まとめ:あなたにできること

髄膜炎は、怖い病気ですが、予防可能です。次の3つを心がけてください。

  1. ワクチンを接種する:子どもにはヒブ、肺炎球菌、MenACWYを定期接種。10代にはMenBも検討してください。
  2. 手洗いとマスクを徹底する:特に冬から春にかけての感染が増える時期に。
  3. 「ちょっと変だな」と思ったら、すぐに病院へ:発疹がなくても、高熱と頭痛、首のこわばりがあれば、髄膜炎の可能性があります。迷わず救急車を呼んでください。

髄膜炎は、早ければ早いほど治る確率が高くなります。1時間の遅れが、命を左右するかもしれません。

長谷川寛

著者について

長谷川寛

私は製薬業界で働いており、日々の研究や新薬の開発に携わっています。薬や疾患、サプリメントについて調べるのが好きで、その知識を記事として発信しています。健康を支える視点で、みなさんに役立つ情報を届けることを心がけています。