スタチン副作用の見分け方診断ツール
症状のタイプを選択してください
以下の質問に答えて、症状が筋症か神経症かを判断しましょう。
- 筋症は、CK値が上昇する傾向がありますが、正常でも可能性があります。
- 神経症は、神経伝導検査が必要です。
- 症状が軽い場合は、スタチンを中止するのではなく、代替療法を検討しましょう。
スタチンを飲んで筋がつる…それは筋症?それとも神経の問題?
スタチンを飲み始めてから、太ももやふくらはぎが急につるようになった。夜中に目が覚めて、筋肉が硬くこわばっている。でも、それはスタチンのせいなのか、それとも年齢のせいなのか、それとも別の病気なのか?
多くの人がこうした症状を経験します。スタチンはコレステロールを下げるための薬として、世界中で数億人が使っています。しかし、その副作用として「筋肉の痛みや痙攣」が報告されることが増えています。でも、この症状の原因は、実は2つのまったく違う仕組みから来ている可能性があります。
一つは「筋症(筋肉の病気)」、もう一つは「周辺神経症(神経の病気)」です。どちらも「筋肉がつる」という同じ症状を起こすけれど、治療法は真逆になります。間違えて対処すると、大切な薬をやめてしまうか、あるいは症状が悪化する可能性があります。
スタチンによる筋症:筋肉そのものが傷ついている
スタチンが原因で起きる筋症は、筋肉の細胞が直接ダメージを受ける状態です。このタイプの筋症は、通常、太ももや骨盤周辺の「近位筋」に影響が出ます。つまり、立ち上がるときや階段を上るときに力が入りにくくなる、歩くのが疲れやすくなる、といった症状が特徴です。
筋肉痛は、炎症を伴わない「だるい」「重い」痛みとして現れます。血液検査で筋肉の酵素であるCK(クレアチンキナーゼ)が高くなることもあります。しかし、実は多くの場合、CKは正常またはわずかに上がっているだけです。それでも、筋症の可能性はあります。なぜなら、CKが正常でも、筋肉のエネルギー代謝が壊れているからです。
スタチンは、体内でコエンザイムQ10(CoQ10)の生成を40%以上減らします。CoQ10は筋肉のエネルギーをつくるために必要な物質です。スタチンを飲み始めて30日以内に、筋肉のCoQ10レベルが急激に下がるという研究もあります。筋肉は肝臓の40倍もスタチンの影響を受けやすい器官です。そのため、肝臓ではコレステロールが下がっても、筋肉ではエネルギー不足が起こるのです。
リスクが高いのは、65歳以上、女性、他の薬(フィブラートなど)を併用している人、そして特定の遺伝子(HLA-DRB1*11:01やSLCO1B1)を持つ人です。特にフィブラートとスタチンの併用は、重篤な筋肉壊死(ラビドミオリシス)のリスクを10倍以上に高めます。
スタチンと神経症:神経がおかしくなっている?
一方で、スタチンが原因で「神経」に問題が起きている可能性もあります。これが「周辺神経症」です。筋症と違って、神経症では「手や足の先」に症状が出ます。ピリピリする、焼けるような痛み、しびれ、感覚が鈍くなる。まるで靴下や手袋をはめているような感覚が広がるのです。
この症状は、筋症とはまったく違う場所で起きます。筋症は「動かす力」が落ちるのに対し、神経症は「感じる力」が落ちるのです。つまり、足の指が冷たいと感じるのに、触っても痛みや圧力が分からない、という状態です。
しかし、ここが難しいところです。スタチンが本当に神経症を引き起こすのか、という証拠ははっきりしていません。ある研究では、スタチンを飲んでいる人の神経症のリスクが高まったと報告されています。でも、別の研究(2019年のWarendorf研究)では、スタチンを飲んでいる人の方が神経症のリスクが低かったという結果が出ています。
その理由として、スタチンがLDLコレステロールを下げることで、神経を守るためのビタミンEの運搬が減る、という説があります。また、CoQ10の減少が神経のエネルギー不足を招く可能性もあります。でも、これらは理論にすぎず、臨床的に「スタチン=神経症」と断定できるほど確実なデータはありません。
 
見分けるための3つのポイント
筋症と神経症を間違えないために、医師が使う3つの判断基準があります。
- 症状の場所:太ももや腰の力が入らない → 筋症。足の指や手の先がしびれる → 神経症。
- CK値:筋症ではCKが上昇することが多い(ただし正常でも可能性あり)。神経症ではCKはほぼ正常です。
- 神経伝導検査:神経症の診断には、この検査が必須です。電気で神経を刺激して、信号がどれだけ速く伝わるかを測ります。神経症なら、感覚神経の反応が弱くなっているのがはっきりわかります。
もし、CKが正常で、しびれやピリピリが主な症状なら、神経症の可能性は低いです。逆に、力が入らない、立ち上がりにくい、階段がきつい、という症状があれば、筋症の可能性が高くなります。
対処法:筋症と神経症ではまったく違う道を選ぶ
筋症と神経症の対処法は、正反対です。
筋症の対処法:
- まず、スタチンを一時的に中止します。2〜3週間で症状が改善すれば、それはスタチンが原因と判断できます。
- 再投与(再挑戦)で症状が戻れば、さらに確実です。ただし、再挑戦は医師の監督下で行う必要があります。
- 再開するなら、ヒドロフィリックなスタチン(ロスバスタチン、プラバスタチン)に変更します。これらは筋肉に取り込まれにくいため、副作用が少ない傾向があります。約60%の人は、別のスタチンでうまく耐えられます。
- それでもダメなら、スタチン以外の薬(エゼチミベ、PCSK9阻害剤)に切り替えます。これらはコレステロールを下げる効果があり、筋肉への影響が極めて小さいです。
神経症の対処法:
- まず、糖尿病、ビタミンB12不足、アルコール依存、甲状腺機能低下症など、神経症の他の原因を排除します。
- スタチンが原因かどうかは、はっきりしません。そのため、症状が軽い場合は、スタチンをやめないで様子を見ることが一般的です。
- 神経症の症状が強く、他の原因が見つからない場合に限り、スタチンを変更または中止します。
 
見逃されがちなリスク:年齢と「気づかない筋力低下」
多くの高齢者は、「最近、足がだるい」「階段がきつい」を「年齢のせい」と思い込んでいます。しかし、これはスタチンによる筋症のサインかもしれません。
筋症はゆっくりと進行します。患者本人は「自分は弱くなった」と気づかないことがあります。家族が「最近、歩くのが遅くなった」と気づくことが多いのです。医師が筋力検査をしないと、この症状は見逃されがちです。
また、ある症例では、スタチンによる筋症が、ギラン・バレー症候群と間違われたこともあります。これは、筋症が急性の神経症状のように見える場合があることを示しています。診断が難しいからこそ、正確な検査が不可欠です。
今後の治療:薬をやめるより、代替療法を選ぶ
スタチンをやめるのは、簡単な選択ではありません。なぜなら、LDLコレステロールを1mmol/L下げると、心臓病や脳卒中のリスクが25%下がるというデータがあるからです。
アメリカ心臓協会(AHA)や欧州動脈硬化学会(EAS)は、スタチンが耐えられない患者には、薬を「やめる」のではなく、「変える」ことを推奨しています。つまり、エゼチミベやPCSK9阻害剤で、スタチンと同じ効果を出そうという考え方です。
コエンザイムQ10のサプリメントは、一部で「効く」と言われますが、2015年のJAMAの研究では、44人のスタチン不耐症患者にCoQ10を投与しても、プラセボと変わらない結果でした。効果があるとは言えません。
あなたが今すぐできること
- 筋がつる、痛い、力が入らない → それは筋症の可能性が高い。特に太ももや腰周辺なら、スタチンと関係している可能性あり。
- 足の指がしびれる、ピリピリする → 神経症の可能性もあるが、まずは糖尿病やビタミン不足をチェック。
- CK値が高ければ、筋症の可能性が高まる。でも、正常でも筋症はあり得る。
- 神経伝導検査を受けることで、神経の問題かどうかがはっきりする。
- 薬を勝手にやめないで、医師と相談して、代替療法を検討しよう。
スタチンは、心臓病のリスクを大きく減らす薬です。だからといって、副作用を無視するのは危険です。正しい見分け方で、安全に使い続ける方法を見つけてください。
スタチンを飲んで筋がつる。これは副作用ですか?
はい、スタチンの副作用として筋肉の痛みや痙攣はよく報告されています。これは「スタチン関連筋症状(SAMS)」と呼ばれ、7〜29%の患者で見られます。ただし、その原因が筋肉の問題(筋症)か、神経の問題(神経症)かで対処法が異なります。筋がつるだけでは判断できず、症状の場所や血液検査、神経検査が必要です。
CK値が正常でも筋症の可能性はありますか?
はい、あります。多くのスタチン関連筋症は、CK値が正常またはわずかに上昇しているだけです。筋肉のエネルギー代謝が壊れている状態でも、CKは上がらないことがあります。筋力の低下や、太もも・腰の重さ、立ち上がりにくさといった症状が主な指標です。CKだけに頼らないで、症状全体を評価してください。
神経症の症状はスタチンで本当に起こるのですか?
はっきりした答えはありません。一部の研究ではスタチンが神経症のリスクを上げるという報告がありますが、別の研究では逆にリスクが下がるという結果もあります。神経症の原因は糖尿病やビタミン欠乏など、他の要因が圧倒的に多いので、スタチンを直接の原因と断定するのは難しいです。症状が出ていても、まず他の原因を排除することが重要です。
スタチンをやめたら、筋のつりは治りますか?
筋症の場合、ほとんどの人がスタチンを中止して2〜3週間で症状が改善します。再投与で症状が戻れば、スタチンが原因と確認できます。しかし、神経症の場合は、スタチンをやめてもすぐに改善しないことがあります。症状が続くなら、神経科で神経伝導検査を受ける必要があります。
コエンザイムQ10のサプリを飲めば、筋のつりが治りますか?
2015年のJAMAの研究では、44人のスタチン不耐症患者にCoQ10を投与しても、プラセボと効果に差がありませんでした。現在、CoQ10のサプリメントは、スタチンによる筋症の治療として推奨されていません。効果があるとは言えず、お金と時間の無駄になる可能性があります。
スタチンをやめたら、心臓病のリスクが上がりますか?
はい、上がります。LDLコレステロールを1mmol/L下げると、心臓病や脳卒中のリスクは25%下がることが分かっています。スタチンをやめるのではなく、エゼチミベやPCSK9阻害剤といった他の薬に切り替えることで、リスクを抑えながら筋肉の副作用を回避できます。薬をやめるのではなく、変えることが重要です。
 
                             
                                             
                                            