運動中に急に息苦しくなったり、咳が出たり、胸がギュッと締め付けられるような感覚がする--それは単なる「体力がない」せいではありません。これは運動誘発性気管収縮(EIB)という、はっきりとした医学的な状態です。日本でも、特に冬の屋外スポーツや学校の体育の時間に、多くの人がこの症状に悩まされています。実は、健康な人でも9~30%が経験し、喘息のある人では90%以上がこの問題を抱えています。でも、正しい知識と対処法があれば、誰でも運動を諦めることなく、全力で走ったり、泳いだり、バスケットボールをしたりできます。
運動誘発性気管収縮とは何ですか?
運動誘発性気管収縮(EIB)は、運動中にまたは運動直後に気道が一時的に狭くなる現象です。息が詰まる、咳が出る、ゼイゼイする、胸が苦しい--これらの症状は、通常5~15分後に現れ、30~60分でピークを迎えます。重要なのは、これは「喘息の発作」ではないということです。喘息は慢性的な気道の炎症を伴いますが、EIBは運動という特定の刺激に対して、気道が過敏に反応する一過性の反応です。多くの人が「風邪をひいたから」や「息が上がったから」と思い込み、病院に行かずに我慢しています。しかし、放っておくと、運動を避けるようになり、体重が増えたり、社会的孤立につながるリスクがあります。統計では、未診断の人の68%が運動を減らしているとされています。
どうやって診断するの?
単に「運動したら息苦しい」だけでは、EIBとは言えません。診断には客観的な検査が必要です。最も一般的なのは、自転車エルゴメーターやランニングマシンを使って、最大心拍数の80~90%で6~8分間、激しく運動させる「運動負荷検査」です。運動前にと運動後に、肺の機能を測る「1秒量(FEV1)」を計測します。運動後、FEV1が10%以上低下すれば、EIBと診断されます。他にも、人工的に大量の空気を吸わせる「エウカプニック自発的過換気(EVH)検査」があります。これは、スキー選手やアイスホッケー選手など、冷気を大量に吸い込むスポーツの選手に特に有効です。病院で「喘息の検査」をしたことがあっても、EIBの検査は別物です。運動をしたときにしか出ない症状だからこそ、運動をしないと見逃されてしまうのです。
予防:薬を使わなくてもできる方法
薬に頼る前に、まず試すべきのが「非薬物的な予防」です。一番効果的なのは、本格的な運動の前に10~15分間、中程度の強度のウォームアップをすることです。例えば、ゆっくりジョギングや軽いストレッチをした後、5分間休む。これだけで、その後2時間は気管が収縮しにくくなる「不応期」が生まれます。これは、多くのアスリートが実践している基本です。
次に、環境を整えることも重要です。気温が10℃以下、湿度が40%以下の日は、EIBのリスクが73%も上がります。寒くて乾燥した空気は、気道の水分を奪い、炎症を引き起こします。屋外で運動するなら、マスクを着用するのも有効です。ただし、市販のトレーニングマスク(例:Nike E+マスク)は、気道を温める効果はありますが、薬ほど効果は高くありません。実際の効果は、アドレナリン吸入薬の42%程度です。
運動の種類も選びましょう。長距離走やスキー、アイスホッケーなどの持久系スポーツでは、85%の人がEIBを経験します。一方、サッカーや野球、短距離走、レスリングのような、短時間でインターバルのあるスポーツでは、22%程度と圧倒的に低いです。無理にマラソンを続ける必要はありません。自分に合った運動を見つけることが、長期的な健康管理の鍵です。
吸入器の正しい使い方--これが最も重要なポイント
EIBの治療で、最も確実で効果的なのは、短時間作用型β2刺激薬(SABA)と呼ばれる吸入薬、特に「アドレナリン」です。これは、運動の5~20分前に、1回に2吸入(90マイクログラム×2)使用します。効果は2~4時間持続し、90%以上の人が症状を防げます。アメリカ胸部学会は、この薬を「EIBの第一選択薬」として強く推奨しています。
しかし、ここで大きな問題があります。63%の人が、吸入器の使い方を間違えているのです。正しい使い方はこうです:
- 吸入器をよく振る(10回ほど)
- 深く息を吐いてから、口にマウスピースをしっかり当て、唇で閉じる
- ゆっくりと深く息を吸いながら、スプレーを1回押す
- 吸い込んだ後、10秒間息を止める(肺への薬の沈着が30%増える)
- その後、ゆっくり息を吐く
「スパーサー」(吸入補助器)を使うと、肺に届く薬の量が70%も増えます。特に子どもや高齢者、または吸入が難しい人には必須です。スパーサーは、6ヶ月ごとに交換しましょう。プラスチックが劣化すると、効果が25%も下がります。また、吸入器は10℃以下では効果が40%低下するため、ポケットや冷蔵庫に入れないで、20~25℃の場所に保管してください。
薬が効かないときは?
アドレナリンを正しく使っても、35%の人は症状が残ります。その場合、気道の「慢性的な炎症」が背景にある可能性があります。このときは、毎日使う吸入ステロイド(ICS)が有効です。フルチカゾン200~400マイクログラム相当を毎日使用すると、症状が50~60%軽減されます。また、白血球三酸化物受容体拮抗薬(LTRAs)である「モンテルカスト」10mgを毎日飲むと、30~40%の改善が見られます。これらは、アドレナリンと併用すると、症状の頻度を78%も減らすことができます。
一方、クロモグリク酸ナトリウムのような「肥満細胞安定化薬」は、60~70%の効果がありますが、運動の15~20分前に毎回使う必要があり、面倒で使いづらいため、現在はあまり使われません。
アスリートと最新のガイドライン
オリンピック選手やプロアスリートの多くがEIBを抱えています。2022年の国際オリンピック委員会(IOC)のガイドラインでは、以前は禁止されていた長時間作用型β2刺激薬(LABA)も、すべて許可されています。これは、EIBが単なる「薬物乱用」ではなく、医学的に正当な治療を必要とする病気であるという認識の変化です。
また、最新の研究では、呼気一酸化窒素(FeNO)の値が25ppb以上ある人は、ステロイド吸入薬に反応しやすいと判明しています。これは、今後「誰にどの薬を」を個別に選ぶ「パーソナライズドメディシン」の第一歩です。さらに、Bluetoothで吸入回数を記録する「スマート吸入器」(例:Propeller Health)も登場し、使用率が47%向上したというデータもあります。
放置するとどうなる?
一番怖いのは、「運動をやめる」ことです。EIBを放置して運動を避けると、2.3倍も肥満のリスクが上がり、心肺機能は37%も低下します。運動不足は、糖尿病や高血圧、うつ病のリスクを高めます。EIBがあるからこそ、運動を続けることが、健康を守る最善の方法なのです。
実践的な予防ステップ
毎日のルーティンとして、次の5つのステップを守ってください:
- 天候を確認する:気温が10℃以下、湿度が40%以下なら、屋内で運動
- ウォームアップをする:10分の軽い有酸素運動+5分の休憩
- 吸入器を準備する:運動の15分前に2吸入(アドレナリン)
- スパーサーを使う:正しく吸うための道具を常に持参
- 運動後も観察する:咳や息苦しさが30分以上続くなら、医師に相談
運動は、健康のための手段です。EIBがあるからといって、その機会を奪われてはいけません。正しい知識と準備があれば、あなたも、プロのアスリートのように、全力で走ることができます。
運動誘発性気管収縮は喘息と同じですか?
いいえ、違います。喘息は気道の慢性的な炎症を伴い、運動以外でも症状が出ます。運動誘発性気管収縮(EIB)は、運動という特定の刺激に反応して一時的に気道が狭くなる現象で、喘息のない健康な人にも起こります。ただし、喘息の人がEIBを起こしやすいのは事実です。
吸入器は運動の前だけ使えばいいですか?
はい、短時間作用型の吸入薬(アドレナリンなど)は、運動の5~20分前に使うのが効果的です。効果は2~4時間持続するので、1回で1日の運動をカバーできます。ただし、毎日のように症状が出るなら、毎日使うステロイド吸入薬が必要になる場合があります。
子どもが吸入器を使うのは安全ですか?
はい、安全です。アドレナリン吸入薬は、小児にも広く使われており、副作用はごくまれです。ただし、正しい使い方が大切です。子どもには必ずスパーサーを使って、大人が監督して吸入させてください。学校の体育の時間に使う場合は、担任の先生や保健室の先生に事前に説明しておきましょう。
運動前にマスクをつけると効果がありますか?
冷気や乾燥した空気を吸わないようにするため、マスクは有効です。ただし、トレーニング用のマスク(呼吸を制限するタイプ)は、EIBの予防にはあまり効果がありません。代わりに、温かい空気を吸い込めるような、保湿効果のあるマスク(例:Respro®)がおすすめです。薬を使うよりも効果は低いですが、補助的な手段としては役立ちます。
運動誘発性気管収縮は治りますか?
EIB自体は「治る」病気ではありませんが、症状は完全にコントロールできます。正しい吸入法と予防策を続けていると、ほとんどの人が、普通の人に負けないくらいの運動を楽しむことができます。特に、心肺機能が上がると、症状は軽くなる傾向があります。1-METのVO2 maxの向上で、症状が12%軽減するというデータもあります。
Hiroko Kanno - 11 1月 2026
これ、本当に助かる情報だよ~。体育の時間、毎回息切れしてて『体力ないな』って思ってたけど、EIBだったのかも…。マスクしてたら少しマシだった気がするけど、理由が分からなくて悩んでた。