ステロイド骨粗鬆症リスク計算機
長期ステロイド服用による骨粗鬆症のリスクを推定します。骨密度の推定低下率と骨の老化年数を計算し、予防対策の参考にどうぞ。
骨密度の推定低下率
骨の老化年数相当
ステロイドを使い続けると、骨がもろくなる理由
長期にわたってステロイド(コルチコステロイド)を服用していると、骨が急激に弱くなることがあります。これは「ステロイド性骨粗鬆症」と呼ばれ、二次性骨粗鬆症の最も一般的な形です。日本でも、関節リウマチや全身性エリテマトーデス、気管支喘息などの慢性疾患で、ステロイドの内服が避けられない患者は少なくありません。しかし、多くの人がこのリスクを知らず、気づいたときには骨折しているケースが後を絶ちません。
ステロイドは、炎症を抑える力が強い反面、骨の新陳代謝に深刻な影響を与えます。骨は、骨を作る「骨芽細胞」と骨を壊す「破骨細胞」のバランスで維持されています。ステロイドは、骨芽細胞の働きを抑制し、寿命を短くします。一方で、破骨細胞の活動は長く続くため、骨が壊れるスピードが作られるスピードを上回ります。その結果、骨密度は治療開始から3〜6ヶ月で急激に低下し、1年以内に5〜15%も減ってしまうことがあります。特に腰椎や大腿骨頸部のような海綿骨(トラベキュラー骨)が早く弱くなります。
さらに、ステロイドは腸でのカルシウム吸収を約30%低下させ、腎臓でのカルシウム再吸収も妨げます。つまり、体がカルシウムをうまく利用できなくなるのです。また、体重をかける運動の効果も25%ほど低下するため、歩くだけでも骨を強くする効果が薄れてしまいます。
どのくらいの量でリスクが高まるのか
「少量なら大丈夫」と思ってはいけません。米国リウマチ学会(ACR)と英国骨粗鬆症協会(Royal Osteoporosis Society)は、プレドニゾロン換算で1日2.5mg以上を3ヶ月以上継続した場合、骨粗鬆症の高リスク群と定義しています。これは、1日半錠程度の用量でも該当します。
リスクは用量に比例します。1日あたりプレドニゾロン1mg増えるごとに、腰椎の骨密度は年間1.4%ずつ低下し、大腿骨頸部では0.9%低下します。つまり、1日7.5mgを1年間服用すると、骨密度は年間で約10%以上減る可能性があります。これは、10〜15歳分の加齢と同等の骨の老化です。
骨折のリスクは、治療開始直後から跳ね上がります。研究では、最初の3〜6ヶ月で骨折リスクが70〜100%増加するというデータがあります。そして、50%の骨折が初年度に発生しています。つまり、予防のチャンスは「治療を始めた直後」にしかないのです。
絶対に必要な3つの基本対策
ステロイド性骨粗鬆症の予防は、薬に頼るだけでは不十分です。世界中のガイドラインが一致して推奨するのは、3つの基本対策です。
- 最低限の用量・最短期間でステロイドを使う:医師と相談して、できるだけ少ない量で、できるだけ短い期間で治療を終えることが最優先です。7.5mg以上から7.5mg以下に減らすだけで、6ヶ月以内に骨折リスクが35%低下することが分かっています。
- カルシウムとビタミンDの補充:1日あたり1,000〜1,200mgのカルシウムと600〜800IUのビタミンDが推奨されます。食事から摂れる分は積極的に取り、不足分をサプリで補います。カルシウム1,000mg+ビタミンD500IUを毎日飲むだけで、骨密度の年間減少を0.72%に抑えられるのに対し、何もしないと2.0%も減るという研究結果があります。
- 体重をかける運動と禁煙:歩く、階段を登る、軽い筋トレなど、骨に負荷をかける運動を週5日以上、1日30分以上続けましょう。ただし、ステロイド使用者は運動の効果が通常より弱いので、無理せず継続することが大切です。また、タバコは骨を弱くする直接的な要因です。禁煙すれば骨折リスクが25〜30%減ります。
アルコールも控えめに。1日3単位(ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイン150ml)を超えると骨の形成が妨げられます。
薬で骨を守る:どれを選ぶべきか
基本対策だけでは足りない場合、薬物療法が必須です。ガイドラインでは、ビスホスフォネートが第一選択薬とされています。
- リセドロネート:1日5mg、または週に1回35mg。椎骨骨折を70%、非椎骨骨折を41%減らす効果があります。
- ゾレドロン酸:1年に1回、静脈注射。1年で腰椎の骨密度が4.5%増加します(対照群は0.5%)。
- デナムマブ:6か月に1回、皮下注射。1年で腰椎の骨密度が7.0%増加。
- テリパラチド:1日1回、自己注射。1年で腰椎の骨密度が9.1%増加し、骨を作る力が最も強い薬です。すでに骨折歴がある、または骨密度が非常に低い(Tスコア≤-2.5)人には特に推奨されます。
テリパラチドは、アレンドロネートと比べて骨密度の上昇が2.3倍多いというデータもあります。ただし、使用期間は2年までと制限されており、長期的な使用はできません。そのため、最初に骨を強くしてから、その後にビスホスフォネートに切り替える「順序療法」がよく行われます。
なぜ多くの人が予防できていないのか
驚くべきことに、ガイドラインが整っているにもかかわらず、実際の医療現場では予防が十分に行われていません。
米国の研究では、長期ステロイド使用者のうち、たった62%しか予防措置を受けていません。骨密度検査を受けたのは31%、カルシウムを処方されたのは40%、ビタミンDの補充が記録されていたのは37%にすぎません。特に男性では、女性の半分以下(44%)しか対策を受けていません。
理由はいくつかあります。まず、患者自身が「ステロイドを使ったら骨は弱くなるのは仕方ない」と思い込んでいます。実際、45%の患者が骨折リスクを正しく理解していません。また、医師同士の連携も不十分です。一般の内科医は、リウマチ科の医師がステロイドを処方した患者の骨のことを、22%しか把握していません。
薬の副作用も問題です。ビスホスフォネートの30%は胃の不快感を訴え、1年後には半数以上が服薬をやめてしまいます。しかし、薬剤師が患者に丁寧に説明するプログラムを導入した病院では、予防対策の実施率が35%から85%まで跳ね上がりました。
あなたが今すぐできること
ステロイドを処方されたら、次のことをすぐに行動に移しましょう。
- 骨密度検査(DEXA)を受ける:治療開始時に1回、その後1〜2年ごとに受ける。骨の状態を数字で把握することが、予防の第一歩です。
- カルシウムとビタミンDの量を医師に確認する:「1日どれくらい飲めばいいの?」と聞いて、必要量を明確にしましょう。
- 運動習慣をつける:毎日15分でもいいから、玄関の段差を登る、部屋の掃除をする、近所のコンビニまで歩くなど、少しでも体を動かす。
- 禁煙と節酒を決める:タバコをやめる日を決めて、お酒も1日1杯に抑える。
- 薬の服用を止めない:ビスホスフォネートは、数年間継続して初めて効果が出ます。胃がもたれたからといって勝手にやめないで、医師に相談してください。
ステロイドは、命を救う薬です。でも、その代償として骨が弱くなるのは避けられます。正しい知識と行動があれば、骨折を防ぎ、元気に生活し続けることは十分可能です。今すぐ、自分の体に向き合う第一歩を踏み出しましょう。
よくある質問
ステロイドを飲み始めたばかりですが、骨粗鬆症の予防はいつから始めればいいですか?
治療を始めた直後、つまり最初の3〜6ヶ月が最も重要です。この時期に骨密度が最も急激に低下するため、カルシウムとビタミンDの補充、運動、禁煙はすぐに始めましょう。骨密度検査も、治療開始時に受けるのが理想です。予防は「遅すぎること」はありませんが、早ければ早いほど効果が高まります。
カルシウムは牛乳だけで十分ですか?
牛乳1杯(200ml)には約240mgのカルシウムが含まれます。1日1,000〜1,200mgが必要なので、牛乳だけでは足りません。豆腐、小魚、ほうれん草、チーズ、納豆なども積極的に取りましょう。それでも足りない分はサプリメントで補う必要があります。サプリは食事と一緒に摂ると吸収が良くなります。
ビスホスフォネートの副作用が怖いのですが、大丈夫ですか?
胃の不快感や下痢は、服用直後に起こることがあります。空腹時に水と一緒に飲む、飲んだあと30分は横にならないようにすれば、副作用を減らせます。稀に顎の骨壊死や大腿骨の骨折が報告されますが、そのリスクは非常に低く、ステロイドによる骨折リスクと比べればはるかに小さいです。副作用が心配なら、医師に相談して、注射タイプ(ゾレドロン酸)や6か月に1回の注射(デナムマブ)を検討してもいいでしょう。
女性は特に注意が必要ですか?
はい、閉経後の女性は、エストロゲンの減少で骨が弱くなりやすく、ステロイドの影響も重なるため、男性よりもはるかにリスクが高いです。実際、男性の約2倍の頻度で予防対策が行われていないというデータもあります。女性は特に、治療開始時に骨密度検査を受けること、そして運動と栄養管理を徹底することが重要です。
骨密度検査は痛いですか?放射線は大丈夫ですか?
DEXA検査は、レントゲンと似ていますが、放射線量は非常に少なく、通常のレントゲンの1/10以下です。1回の検査で受ける放射線は、飛行機で東京〜ニューヨークを往復するくらいの量です。痛みは全くなく、横になって5〜10分で終わります。骨の強さを数値で知るための、最も確実な方法です。
ステロイドをやめたら、骨は元に戻りますか?
ステロイドをやめた後も、骨密度は徐々に回復しますが、完全に元に戻るとは限りません。特に、最初の1年で骨密度が大きく減っていた場合、回復は限定的です。だからこそ、ステロイドを使い始めた段階で予防をしっかり行うことが、骨折を防ぐ最大の鍵になります。薬をやめた後も、カルシウムや運動は継続しましょう。
次にやるべきこと
ステロイドを処方されたら、まずは「骨の健康」を医療チームに伝えてください。病院の受付で「骨粗鬆症の予防について相談したい」と言えば、骨密度検査や薬の処方をスムーズに進められます。薬剤師に「カルシウムとビタミンDのサプリメントをどう選べばいいか」を聞くのも有効です。
もし、病院で対応が不十分だと感じたら、地域の保健センターや骨粗鬆症サポートグループに相談してください。日本でも、近年、ステロイド使用者の骨の健康を守るための取り組みが広がっています。あなた一人で抱え込まないで、信頼できる専門家と連携することが、未来の健康を守る第一歩です。