関節リウマチ:自己免疫性関節疾患と生物学的治療の選択肢

関節リウマチ:自己免疫性関節疾患と生物学的治療の選択肢

関節リウマチは、免疫システムが自分の関節を攻撃してしまう自己免疫性の病気です。健康な組織である滑膜(かつまく)に炎症を起こし、痛み、こわばり、腫れを引き起こします。これは単なる加齢や使いすぎによる関節炎とは根本的に違います。骨と骨の間にある滑膜が攻撃されると、徐々に軟骨や骨が溶けていき、関節が変形するまで進行します。アメリカ疾病対策センター(CDC)の2022年データでは、米国だけで約130万人がこの病気を抱えており、女性は男性の2〜3倍の確率で発症します。発症のピークは30〜60歳ですが、20代や70代でも起こります。

関節リウマチの特徴的な症状

関節リウマチの症状は、ゆっくりと始まります。数週間から数ヶ月かけて、指や手首、足の関節が痛み出し、朝起きたときに1時間以上もこわばります。これは、他の関節炎ではあまり見られない特徴です。また、左右対称に症状が出るのが特徴です。左手の親指が痛ければ、右手の親指も痛くなる。これは、免疫システムが全身を攻撃している証拠です。

関節の腫れや熱感だけでなく、全身にも影響が出ます。疲れやすさ、発熱、体重減少、貧血が起きることもあります。10〜15%の患者では、目や口が乾く「シェーグレン症候群」が併発します。皮膚には痛みのないしこり(リウマチ結節)ができ、肺や血管にも炎症が広がることがあります。心臓病のリスクも高まります。これは、関節リウマチが単なる「関節の病気」ではなく、全身の病気であることを意味します。

診断はどのように行われるか

診断は、症状の経過と検査結果を組み合わせて行います。6週間以上続く関節の痛みと腫れ、朝のこわばりが30分以上続くことが基準です。血液検査では、リウマチ因子(RF)や抗CCP抗体の値を測ります。これらの抗体が陽性であれば、関節リウマチの可能性が高まります。ただし、すべての患者が陽性になるわけではありません。レントゲンや超音波、MRIで関節の早期の変化(軟組織の腫れ、骨の密度低下、軟骨のすり減り)を確認することも重要です。

早期発見が、関節の破壊を防ぐカギです。専門家は「症状が出てから3〜6ヶ月の間に治療を始めるのがベスト」と言います。この時期に適切な薬を使えば、関節の変形をほぼ防げます。放置すると、数年で指が曲がって物を握れなくなったり、歩けなくなったりする可能性があります。

第一選択薬:メトトレキサート

関節リウマチの治療は、まずメトトレキサートという薬から始めます。これは、1950年代から使われている従来の治療薬で、免疫の働きを抑える「疾病修飾抗リウマチ薬(DMARD)」です。1週間に1回、内服または注射で使います。多くの患者で効果があり、価格も比較的安いため、世界中で第一選択薬として使われています。2023年の処方データでは、新規患者の68%がメトトレキサートから治療を始めています。

しかし、すべての人に効くわけではありません。約30〜40%の患者は、メトトレキサート単独では症状が十分に改善しません。その場合、次に進むのが「生物学的治療」です。

片側は健康で柔軟、もう片側は硬く壊れた関節を持つ人間の姿。薬と生物製剤が浮かぶ幻想的な風景。

生物学的治療とは何か

生物学的治療は、免疫システムの特定の部分だけを狙って攻撃する薬です。従来の薬が「免疫全体を抑える」のに対して、生物学的治療は「炎症を起こす特定の分子」だけをブロックします。そのため、効果が強く、副作用も比較的限られています。アメリカFDAは1998年に最初の生物学的薬(エタネルセプト)を承認して以来、治療の可能性が大きく変わりました。

現在、主に使われる生物学的治療には4つのタイプがあります:

  • TNF阻害剤:アダリムマブ(ヒュミラ)、エタネルセプト(エンブレル)、インフリキシマブ(レミケード)など。炎症の中心にあるTNFという物質を抑える。最も広く使われており、生物製剤の55%を占める。
  • IL-6阻害剤:トシリズマブ(アvasティ)など。IL-6という炎症物質をブロック。関節の痛みだけでなく、全身の疲労感や貧血にも効果的。
  • B細胞阻害剤:リツキシマブ(リツキサン)など。B細胞という免疫細胞を減らす。抗CCP抗体が高い患者に有効。
  • T細胞共刺激阻害剤:アバタセプト(オレンジア)など。T細胞の活性化を抑える。免疫の「スイッチ」を切る役割。

これらの薬は、通常、メトトレキサートと組み合わせて使います。CDCの2022年の臨床試験データによると、メトトレキサート単独では40%の患者で病気の活動性が半分以下に減るのに対し、生物学的治療と組み合わせると60%の患者で同じ効果が得られます。

生物学的治療のリスクと課題

生物学的治療は強力ですが、リスクもあります。最も大きなリスクは重篤な感染症です。結核や肺炎、肝炎の再活性化のリスクが、従来の薬と比べて1.5〜2倍高まります。そのため、治療を始める前に、結核の検査や肝炎のスクリーニングが必須です。

また、皮膚に発疹が出たり、注射部位が赤くなったり、かゆくなったりする反応もよく見られます。一部の患者では、リンパ腫のリスクがわずかに高まるという報告もありますが、これは非常に稀です。

大きな課題は価格です。1年間の治療費は150万円から600万円以上かかります。日本では公的医療保険が適用されますが、自己負担分も高額になりがちです。2023年の患者調査では、41%の人が「費用が原因で治療を中断した」と答えています。

新しい治療の動き

2023年9月には、ヒュミラのバイオシミラー(アダリムマブアダズ)が日本でも承認され、価格が15〜20%下がる見込みです。2024年1月には、ウパダシチニブ(リノブ)という経口薬が早期の関節リウマチにも使えるよう拡大承認されました。これは、従来の生物学的治療のように注射ではなく、毎日1錠飲むだけの薬です。

今後、TYK2阻害剤(デュクラバチニブ)や新しいB細胞標的薬が2025〜2027年頃に登場する予定です。これらの薬は、より精密に免疫の働きを調整し、副作用を減らすことを目指しています。

日常の小さな動作が困難になる様子を断片的に描き、関節から育つ小さな植物が希望を象徴する抽象的イラスト。

患者のリアルな体験

ある42歳の女性は、2022年からトシリズマブを始めました。5年間、手の変形でピアノを弾けなかったのが、治療開始から半年で指の動きが戻り、再び音楽を楽しめるようになりました。彼女の話は、関節リウマチの治療が「生活の質」を回復させうることを示しています。

一方で、Redditの患者コミュニティでは、78%の人が朝のこわばりが60分以上続くと報告しています。ボタンをかける、瓶の蓋を開ける、パソコンのキーボードを打つ--日常の小さな動作が、大きな障害になります。

治療の先にあるもの:生活の質の回復

薬だけでは治りません。週に150分の軽い運動(散歩、水泳、ヨガ)が、関節の柔軟性を保ち、痛みを軽減します。体重を5〜10%減らすだけで、病気の活動性が20〜30%下がるという研究もあります。

日本では、関節リウマチ患者のための「Live Yes! アルテリティネットワーク」や、CDCの自己管理プログラムが無料で提供されています。これらのプログラムに参加した患者は、6か月後に痛みが20%軽減したというデータがあります。

関節リウマチは、完治しない病気ですが、コントロールは可能です。早期に正しく治療すれば、多くの人が仕事も、趣味も、家族との時間も、普通に過ごせます。薬の進歩と、自分自身のケアが、未来の「動ける自分」をつくります。

関節リウマチと変形性関節炎の違いは?

関節リウマチは免疫が自分の関節を攻撃する「自己免疫疾患」で、痛みや腫れが左右対称に現れます。変形性関節炎は、加齢や使いすぎで軟骨がすり減る「機械的故障」です。痛みは単側に多く、朝のこわばりは10分以内で治まります。血液検査でも異常が見られません。

生物学的治療はいつから始めるべき?

メトトレキサートを3〜6ヶ月使っても症状が改善しない場合、医師と相談して開始します。症状が出てから半年以内に治療を始めると、関節の破壊を防げる可能性が高くなります。遅すぎると、手術が必要になることもあります。

生物学的治療の副作用で怖いのは?

最も注意すべきは感染症です。結核、肺炎、肝炎の再活性化が起きやすくなります。治療前に必ず検査を受け、治療中は風邪をひいたらすぐに医師に相談してください。発熱や倦怠感が続く場合は、すぐに受診が必要です。

薬をやめても大丈夫?

症状がよくなっても、勝手に薬をやめないでください。再燃(flare)が起こり、関節がさらに悪化するリスクがあります。医師と相談して、徐々に減らす「減量戦略」を進める必要があります。自己判断での中断は、長期的には治療の効果を下げます。

日本では生物製剤は保険適用?

はい、すべての生物学的治療薬は日本では公的医療保険が適用されます。自己負担は3割(70歳未満)ですが、高額療養費制度を利用すれば、月の自己負担額は一定額(例:8万円)を超えると、それ以上は払い戻されます。医師や薬剤師に相談して、制度の利用を忘れないでください。

次に何をすべきか

関節リウマチと診断されたら、まず専門のリウマチ科を受診してください。整形外科や内科でも対応できますが、リウマチ専門医が最も適切な治療を進めます。治療の選択肢は増えています。薬、運動、食事、心理的サポート--すべてを組み合わせて、自分の生活を取り戻すことが可能です。

「もう動けない」とあきらめないでください。20年前と比べて、関節リウマチの治療は飛躍的に進歩しています。今は、痛みを我慢する時代ではなく、痛みをコントロールする時代です。

長谷川寛

著者について

長谷川寛

私は製薬業界で働いており、日々の研究や新薬の開発に携わっています。薬や疾患、サプリメントについて調べるのが好きで、その知識を記事として発信しています。健康を支える視点で、みなさんに役立つ情報を届けることを心がけています。