患者が知って使いこなすべき薬の安全に関するキーワード

患者が知って使いこなすべき薬の安全に関するキーワード

薬を正しく使うことは、あなたの命を守ることです。毎年、日本でも多くの人が薬の誤使用で入院したり、重い副作用に悩まされたりしています。でも、その多くは、少しの知識と質問で防げるのです。薬の安全を守るために、患者が必ず知っておくべきキーワードとその使い方を、具体的に紹介します。

薬の安全を守る8つの基本ルール

医療現場では、薬の誤りを防ぐために「8つの権利(Eight Rights)」というフレームワークが使われています。これは、医師や看護師が薬を出すときのチェックリストですが、患者自身がこの言葉を理解して使いこなせば、大きなリスクを減らせます。

  • 正しい患者:「私は○○さんですか?」と確認しましょう。名前と生年月日、または患者IDの2つを確認してもらうことが標準です。
  • 正しい薬:処方された薬の名前が合っているか、漢字とカタカナで確認してください。似た名前の薬(例:アモキシシリンとアモキシカビル)で間違えるケースがよくあります。
  • 正しい量:「1日何回、何mg?」と聞きます。液体の薬は、スプーンや注射器で正確に測る必要があります。子どもや高齢者では、量の誤りが事故の原因になることが多いです。
  • 正しい経路:「この薬は飲むのですか?それとも塗るのですか?注射ですか?」と確認します。飲み薬を注射で、あるいは塗り薬を飲んでしまうような重大なミスが実際に起きています。
  • 正しい時間:「朝、昼、夜、どれで飲むのですか?」と聞きます。食前、食後、就寝前など、時間帯によって効果や副作用が変わります。
  • 正しい理由:「この薬は、どんな病気のためですか?」と必ず聞いてください。薬の目的が分かれば、本当に必要かどうかを判断できます。例えば、風邪の薬を血圧の薬と間違えて飲み続けるのは危険です。
  • 正しい記録:薬を飲んだ日時を手帳やスマホのアプリで記録しましょう。忘れずに飲むだけでなく、副作用が出たときの原因特定にも役立ちます。
  • 正しい反応:「どんな効果が期待されますか?どんな副作用が出る可能性がありますか?」と聞きます。頭が重い、吐き気、皮膚のかゆみなど、普段と違う症状があれば、すぐに医師に伝えましょう。

これらの8つのポイントを、薬をもらうたびに口に出して確認するだけで、薬のミスを半分以上減らせるという研究結果もあります。

「副作用」と「有害事象」の違いを知る

薬を飲んで体調が悪くなったとき、「副作用だ」と思って放っておく人がいます。でも、それは本当に副作用でしょうか?

「副作用(side effect)」とは、薬の本来の効果以外に起きる、予想される軽い不快な反応です。たとえば、風邪薬で眠くなる、胃薬で下痢になる、といったものは副作用です。多くの場合、数日で慣れたり、量を調整すれば改善します。

一方、「有害事象(Adverse Drug Event、ADE)」は、薬が原因で体に深刻なダメージを与えた状態です。たとえば、薬の過剰摂取で意識がもうろうになった、アレルギー反応で呼吸困難になった、血圧の薬を間違って飲んで意識を失った、といったケースです。これは「予防できる事故」です。

アメリカのCDC(疾病対策センター)のデータでは、毎年150万人以上がADEで救急搬送されています。日本でも、高齢者が複数の薬を飲んでいると、こうしたリスクが高まります。薬をもらったとき、「この薬でどんな有害事象が起きる可能性がありますか?」と聞く習慣をつけましょう。

高リスク薬の巨大な赤い薬瓶が空に浮かび、患者が質問の盾を発している超現実的な風景。

高リスク薬とは?知っておくべき危険な薬

すべての薬が危険というわけではありませんが、中には「誤った使い方をすると命に関わる」薬があります。これを「高リスク薬(High-alert medications)」といいます。

主な例:

  • インスリン(糖尿病の薬):量が多すぎると低血糖で意識を失う可能性があります
  • ワーファリン・エリキュース(血液をさらさらにする薬):飲み忘れや他の薬との飲み合わせで出血しやすくなります
  • モルヒネ・オキシコドン(強い鎮痛薬):過剰摂取で呼吸が止まることがあります
  • 塩化カリウム(静脈注射):誤って経口で飲むと心臓が止まる危険があります

これらの薬を処方されたら、必ず「この薬は高リスク薬です。どうやって安全に使うべきか?」と医師や薬剤師に確認してください。薬の説明書には「高リスク薬」と明記されている場合もあります。もし説明がなければ、自分から尋ねるのが安全です。

「カジュアルなミス」が命を左右する

薬のミスは、いつも「大きな間違い」から起きるわけではありません。たとえば:

  • 「昨日の薬、飲んだかな?」と思って、同じ薬を2回飲んでしまう
  • 薬の名前を聞き間違えて、違う薬をもらいにいく
  • 子どもや高齢者の薬を、自分用と混同して飲んでしまう

こうした「カジュアルなミス」を専門用語で「クローズコール(Close call)」といいます。つまり、「今、事故は起きていないけど、あと一歩で大変なことになってた」という状況です。

日本では、こうした「ちょっとしたミス」が積み重なることで、大きな問題になります。薬局や病院では、こうしたケースを報告して、次に同じミスが起きないように改善しています。あなたが「ちょっと気になったけど、大丈夫かな?」と思ったら、それはクローズコールのサインです。遠慮せず、「この薬、本当にこれでいいですか?」と聞いてください。

紙でできた人間の体に日本語のメモが貼られ、安全を守る質問が浮かぶ surreal な医療シーン。

薬の安全は「質問」で守れる

医療従事者は、薬の使い方を丁寧に説明しようとしています。でも、忙しい中で、すべてを完璧に伝えるのは難しいのです。

そこで、患者側が「この言葉」を使って、自分から話しかけることが重要です。

例えば:

  • 「この薬は、正しい患者、正しい薬、正しい量で出されていますか?」
  • 「この薬の目的は?副作用で気をつけることは?」
  • 「この薬は、高リスク薬ですか?どうやって安全に使うべきですか?」

こうした質問をすることで、医療チームは「この患者はちゃんと理解しようとしている」と認識し、より丁寧に説明してくれます。研究によると、薬の目的を説明できる患者は、不適切な薬を処方される確率が37%も下がります。

今すぐできること:3つの行動リスト

今日から、次の3つを実践してみてください。

  1. 薬をもらうたびに、「8つの権利」を頭で確認する。特に「正しい理由」と「正しい反応」を忘れずに。
  2. スマホのメモや手帳に、薬の名前・量・時間・目的を書き留める。アプリ(例:Medisafe)でもOK。
  3. 「この薬は高リスク薬ですか?」と1回だけ聞いてみる。答えがなくても、その質問が自分の安全を守る第一歩になります。

薬の安全は、専門家の責任だけではありません。あなたが「知る」「聞く」「記録する」ことで、事故は防げます。薬を飲むたびに、少しの勇気と質問を忘れずに。

薬の名前が漢字とカタカナで違うのはなぜですか?

漢字の名前は「一般名」(ジェネリック)で、カタカナの名前は「商品名」(ブランド名)です。たとえば、「アモキシシリン」が一般名で、「アモキシラン」が商品名です。医師は一般名で処方しますが、薬局では商品名で薬を渡します。両方を確認することで、似た薬と間違えるのを防げます。

複数の薬を飲んでいると、何が危険ですか?

薬が増えるほど、相互作用(飲み合わせ)のリスクが高まります。特に、血圧薬、糖尿病薬、抗凝固薬、精神薬の組み合わせは注意が必要です。薬剤師に「今、飲んでいる薬すべてをチェックしてほしい」と頼んでください。多くの薬局では無料で薬の飲み合わせチェックを提供しています。

薬を飲むのを忘れてしまったらどうすればいいですか?

忘れた直後に気づいたら、すぐに飲んで大丈夫です。でも、次の服用時間まであと1〜2時間しかない場合は、飲まないでください。代わりに、次の時間に通常の量を飲むようにします。2回分を一度に飲むと、過剰摂取になる危険があります。不安なら、薬剤師に電話で確認するのが最善です。

高齢者や認知症の人が薬を正しく飲めるようにするには?

薬を管理するための「薬手帳」や「薬カレンダー」を使いましょう。薬局で無料で配布されています。1日分を小さなビンに分けて入れて、朝・昼・夜で色を変えると見分けやすくなります。家族や介護者が毎日確認する仕組みを作ることも重要です。薬の目的をシンプルに「この薬は心臓を守る薬です」のように伝えるのも効果的です。

薬の説明書は読むべきですか?

はい、必ず読んでください。特に「副作用」「注意事項」「飲み合わせ」の部分です。説明書は、医師や薬剤師が書いた正式な情報です。読むのが難しいなら、薬局で「わかりやすく説明してほしい」と頼んでください。日本では、薬の説明書の簡易版(イラスト付き)も提供されています。

長谷川寛

著者について

長谷川寛

私は製薬業界で働いており、日々の研究や新薬の開発に携わっています。薬や疾患、サプリメントについて調べるのが好きで、その知識を記事として発信しています。健康を支える視点で、みなさんに役立つ情報を届けることを心がけています。