ジェネリック薬の供給チェーン問題:分布リスクと患者への影響

ジェネリック薬の供給チェーン問題:分布リスクと患者への影響

アメリカで処方される薬の90%はジェネリック薬です。でも、そのほとんどが、中国やインドの工場で作られています。その供給チェーンが、今、破綻しかけているのです。2025年4月時点で、米国では270種類のジェネリック薬が不足しています。これは、がん治療薬、抗生物質、静脈注射用の生理食塩水、エピネフリンなど、命を守る薬が手に入らない状態を意味します。

なぜジェネリック薬だけが足りなくなるのか

ジェネリック薬は、ブランド薬と違って、価格が極端に安いです。1本あたり5ドル以下で売られる静脈注射薬も珍しくありません。製薬会社は、この低価格で利益を出すために、製造コストを徹底的に削減します。その結果、生産拠点は、労働力が安く、規制が緩い国に集中しました。中国は、世界の活性薬品成分(API)の40%を生産しています。インドは、その製造工程を担っています。

しかし、この「コスト最優先」のモデルには致命的な欠陥があります。製造工場が1カ所だけだと、地震、洪水、品質問題、政治的緊張--たった一つの出来事で、全国の病院が薬を失う可能性があるのです。2023年、ポスターの工場が竜巻で被災したとき、15種類の薬が一気に生産停止になりました。インドの工場でシスプラチンというがん治療薬の品質問題が発覚したとき、アメリカ全土でこの薬が不足しました。

ブランド薬とジェネリック薬の供給の違い

ブランド薬メーカーは、供給チェーンを世界中に分散させています。複数の工場で生産し、在庫をたっぷり抱えています。価格が高いため、リスクを吸収する余裕があります。一方、ジェネリックメーカーは、利益率が5%以下。在庫を増やす余裕がありません。1つの工場が止まれば、その薬は数週間、数ヶ月、手に入らなくなります。

特に危険なのは、静脈注射薬です。無菌環境で作らなければならないため、設備が複雑で、建設に数年かかります。そのため、製造できる会社が限られています。ある薬の製造が、たった1~3社に集中しているケースが珍しくありません。これは、一つの壊れた歯車が、全体を止める仕組みです。

薬の不足が患者に与える実際の影響

薬が足りないと、医師は代替薬を処方せざるを得ません。でも、その代替薬は効果が弱い、副作用が強い、あるいは価格が高くなることが多いです。がん患者は、治療が遅れたり、中止されたりします。抗生物質が足りないと、感染症の治療が遅れて、入院期間が長くなります。小児科や救急医療では、エピネフリンや生理食塩水がなければ、命を守れません。

病院の薬剤師は、薬の不足対応に毎週20~30%の時間を費やしています。代替薬を探し、薬を希釈して使い回し、処方を変更する作業です。ある薬剤師は、「毎日、患者の命をどう守るかを考える日々です」と語っています。

供給チェーンが根となった薬の木、一つの枝が折れている様子

なぜ政府は対策を取れないのか

アメリカ政府は、国内での製造を復活させようとしています。でも、現実的な解決策はほとんどありません。国内でAPIを生産するには、5~7年と200億~300億ドルが必要です。労働力も、技術も、設備も、ほとんどが失われています。

また、中国からの輸入を制限する関税を導入すれば、薬の価格が急騰します。それによって、もっと多くのジェネリック薬が市場から消える可能性があります。医療現場では、関税は「薬の不足を悪化させるだけ」と警鐘を鳴らしています。

さらに、FDAの監督体制も弱まっています。海外の工場の検査は強化されていますが、国内の検査職員は削減され、監視の穴ができています。

未来の解決策は何か

単純な「アメリカ製」への転換は、現実的ではありません。でも、いくつかの現実的な対策はあります。

まず、**必須薬の最低6か月分の備蓄**を法律で義務付けることです。S.2062法案では、エピネフリン、ヘパリン、抗生物質、生理食塩水など、20種類の救命薬について、6か月分の在庫を確保するよう求めています。

次に、**APIの原産地を明示するラベル**を義務化することです。患者や医師が、どの薬が中国製か、インド製かを知れば、リスクを判断できます。製造元が曖昧な薬は、購入を控える病院も出てくるでしょう。

そして、**低利益薬への補助金制度**です。利益が薄い薬でも、生産を続けるよう、政府が直接支援する仕組みが必要です。たとえば、年間100万ドルの補助金を、安定的に生産しているメーカーに支払う--これだけで、数種類の薬の不足は防げます。

薬が足りない薬局の棚に残った三本の救命薬と影のような人形

今、私たちができること

個人としてできることは限られていますが、一つだけあります。**薬の不足が起きていることを、知ること**です。病院や薬局で「この薬は今、不足していますか?」と聞く。医師に「代替薬はありますか?副作用は?」と質問する。

ジェネリック薬は「安いから安全」と思われがちですが、実は、価格が低いからこそ、リスクが高いのです。供給チェーンが脆いから、誰かの命が失われる可能性があるのです。

2025年現在、アメリカでは毎日、薬が足りないという状況が続いています。これは、単なる「物流の問題」ではありません。経済の構造、政策の選択、そして私たちが「安い薬」を求める態度が、作り出した危機です。解決するには、誰かが「誰かの命」を守るために、お金を出す覚悟が必要です。その誰かが、政府でも、メーカーでもなく、私たち一人一人の声である可能性があります。

ジェネリック薬の供給リスクを理解するための5つの事実

  • アメリカで処方される薬の90%はジェネリック薬だが、その売上は全体の13.1%にすぎない
  • API(活性成分)の40%は中国で生産されており、その品質管理には過去に信頼性の問題があった
  • 静脈注射薬が薬不足の70%以上を占め、その多くは1本あたり5ドル以下
  • 2024年第1四半期、薬不足は323種類に達し、過去最高を更新
  • 薬剤師の20~30%の労働時間は、薬不足の対応に使われている

ジェネリック薬の不足は、日本にも影響するのでしょうか?

はい、影響します。日本はジェネリック薬の使用率が高く、APIの多くを中国やインドから輸入しています。アメリカで薬が足りなくなると、グローバルな供給網が混乱し、日本への輸入も遅れたり、価格が上がったりします。特に、静脈注射薬や抗がん剤は、世界中で競争が激しく、日本の病院でも不足が報告されています。

薬の価格が安いと、品質が悪いという意味ですか?

いいえ、品質が悪いとは限りません。ジェネリック薬は、ブランド薬と同じ有効成分を含み、FDAや厚生労働省の厳しい審査を通過しています。問題は、価格が低すぎるため、製造会社が品質管理に投資できなくなることです。設備のメンテナンスを怠ったり、検査を省略したりするリスクが高まるのです。

薬不足の時に、代替薬を使うのは安全ですか?

医師が選んだ代替薬は、基本的には安全です。しかし、効果が弱かったり、副作用が強かったり、投与方法が違うことがあります。例えば、ある抗生物質が足りないとき、別の種類に切り替えると、効果が出るまでに数日遅れることがあります。がん治療では、代替薬が治療効果を大きく下げる場合もあります。必ず医師と相談してください。

ジェネリック薬の製造を日本に移すことは可能ですか?

技術的には可能ですが、経済的に難しいです。日本は労働コストが高く、薬の価格を下げられません。政府が補助金を出し、製薬会社に「低利益薬を生産するインセンティブ」を提供しない限り、企業は参入しません。現在、日本でも一部の緊急薬(例:エピネフリン)は国内生産を増やしていますが、全体の流れを変えるには、数年と多額の投資が必要です。

今後、薬不足は改善されるでしょうか?

2025年現在、改善の兆しはほとんどありません。政策の動きは遅く、企業の投資意欲は低く、患者の声は届いていません。しかし、最近、アメリカでは「必須薬の備蓄義務化」や「原産地表示」の議論が本格化しています。もし、これらの政策が実現すれば、2027年以降に少しずつ改善する可能性があります。しかし、根本的な解決には、薬の価格と利益の構造を見直す必要があります。

長谷川寛

著者について

長谷川寛

私は製薬業界で働いており、日々の研究や新薬の開発に携わっています。薬や疾患、サプリメントについて調べるのが好きで、その知識を記事として発信しています。健康を支える視点で、みなさんに役立つ情報を届けることを心がけています。