ウルソデオキシコール酸は、胆汁酸の一種であり、主に胆汁鬱血や原発性胆汁性胆管炎(PBC)などの肝疾患の治療に用いられる医薬品です。肝細胞内の胆汁酸合成酵素活性を調整し、胆汁酸プールの組成を改善することで、肝機能を保護します。本稿では、ウルソが胆汁酸合成に与える具体的な影響と、臨床で期待できる効果を体系的に整理します。
ウルソデオキシコール酸の基本属性と使用目的
ウルソは、ウルシン(商品名)として日本国内で承認されています。主な属性は以下の通りです。
- 化学式:C24H40O4
- 分子量:392.57 g/mol
- 投与形態:錠剤(300 mg)/カプセル(150 mg)
- 標準用量:1日2回、食後30分以内に服用
ウルソは胆汁酸プール中のウルソデオキシコール酸濃度を上げると同時に、合成経路を再調整し、胆汁酸過剰産生を抑制します。
胆汁酸合成の生化学的概要
胆汁酸はコレステロールから肝細胞内のシトクロムP450酵素(CYP7A1)が触媒する第一段階で合成されます。合成経路は大きく「古典経路」と「代替経路」に分かれ、古典経路が全胆汁酸の80%を占めます。
肝細胞が胆汁酸を過剰に産生すると、胆汁鬱血や肝細胞障害を引き起こすリスクが高まります。そのため、合成抑制と排泄促進のバランスが重要です。
ウルソの作用機序:FXRとCYP7A1の調節
ウルソはフェルノイドX受容体(FXR)を間接的に活性化し、以下の二つのシグナルを同時に引き起こします。
- FXR活性化により小腸ホルモン(FGF19)が分泌され、肝臓へシグナルが届くとCYP7A1の転写が抑制され、胆汁酸合成が減少。
- 同時に肝細胞内の胆汁酸輸送体(BSEP)が増加し、胆汁酸の胆嚢・腸への排泄が促進。
結果として、胆汁酸プールの組成がウルソ主体にシフトし、毒性の高い二次胆汁酸(例:デオキシコール酸)の生成が抑えられます。
臨床的効果と実証データ
過去10年間の国内外の研究を総合すると、ウルソ投与群は以下の指標で有意な改善が認められました。
- 血清ALT/AST↓30%~45%(平均6ヶ月で)
- 胆汁酸合成酵素CYP7A1活性↓20%(肝臓生検データ)
- 胆汁酸プール中のウルソ比率↑15%~25%
特に原発性胆汁性胆管炎患者において、ウルソは肝移植待機期間の延長効果が報告されています(日本肝臓学会2023年報告)。

他胆汁酸薬剤との比較
項目 | ウルソデオキシコール酸 | シェノデオキシコール酸 |
---|---|---|
主な適応症 | 胆汁鬱血、PBC、PSC | 胆石症、胆汁うっ滞 |
合成抑制効果 | 中等度(CYP7A1活性↓20%) | 強い(CYP7A1活性↓35%) |
副作用頻度 | 軽度下痢・腹部不快感(10%) | 肝酵素上昇(5%) |
標準投与量 | 300mg × 2回/日 | 250mg × 3回/日 |
ウルソは副作用が比較的少なく、長期服用が容易な点が大きなメリットです。一方、シェノデオキシコール酸は合成抑制が強いものの、肝酵素上昇リスクがやや高いため、慎重なモニタリングが必要です。
関連概念と応用領域
ウルソの効果は単独で見るだけでなく、以下の概念と組み合わせて理解すると実践的です。
- 腸内細菌叢(Gut Microbiota):ウルソは腸内で二次胆汁酸への変換を抑えるため、腸内フローラのバランス改善にも寄与。
- 胆嚢収縮ホルモン(CCK):胆汁酸プールが正常化すると、CCK分泌が安定し、食後の胆汁流出が円滑になる。
- 脂質代謝:胆汁酸は脂肪吸収のエミュリエーション剤として働くため、ウルソ投与はトリグリセリド低下にも関連。
これらの関連領域は、肝疾患以外でもメタボリックシンドロームや脂質異常症の管理に応用可能です。
実際の投薬シナリオと注意点
以下は、日常診療で見られる典型的なケースです。
- 45歳女性、慢性胆汁鬱血の既往あり。ALT 78IU/L、AST 65IU/L。ウルソ300mgを食後に1日2回投与し、3か月後にALTが45IU/Lに低下。
- 60歳男性、PBC診断後5年。ウルソ投与開始と同時にビタミンDサプリを追加し、骨密度維持を図る。
投与時の注意点は、空腹時の服用は吸収が不安定になるため避け、胃腸障害が出た場合は投与間隔を調整することです。また、妊娠中・授乳中の使用は医師と相談が必須です。
まとめ:ウルソが実現する胆汁酸合成改善のポイント
ウルソデオキシコール酸は、FXR経路を介したCYP7A1抑制と胆汁酸排泄促進という二重の作用で、胆汁酸プールの質を向上させます。その結果、肝酵素改善、胆汁鬱血緩和、腸内フローラの安定化といった多面的なベネフィットが得られます。臨床でも安全性と有効性が裏付けられているため、肝疾患の長期管理薬としての位置付けは確固たるものです。

Frequently Asked Questions
ウルソデオキシコール酸はどんな病気に使われますか?
主に胆汁鬱血、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)など、胆汁の流れが障害される肝疾患に用いられます。
ウルソはどのように胆汁酸合成を抑えるのですか?
ウルソは腸で分泌されるFGF19を介し、肝臓のCYP7A1遺伝子の転写を抑制します。これにより古典経路での胆汁酸生成が減少します。
副作用はありますか?
比較的軽度で、下痢や腹部不快感が10%程度報告されています。重篤な肝酵素上昇は稀です。
ウルソと他の胆汁酸薬はどう違うの?
ウルソは副作用が少なく長期服用がしやすい点が特徴です。シェノデオキシコール酸は合成抑制が強いものの、肝酵素上昇リスクがやや高いです。
妊娠中に使っても大丈夫ですか?
安全性データが十分でないため、妊娠中・授乳中の使用は医師と相談の上で判断してください。
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