免疫不全は、体が感染と戦う力が弱くなる病気のグループです。特に子どもでは、風邪や耳の感染が頻繁に起こるのは普通ですが、それが「普通」を超えていると、免疫不全のサインかもしれません。反復する感染が続く場合、ただの運が悪いわけではなく、体の防衛システムに深刻な問題がある可能性があります。早期に見つければ、重い合併症を防ぎ、命を救えることがあります。
免疫不全の10の赤信号
健康な子どもは、1年間に6~12回の呼吸器感染を経験するのが普通です。でも、次の兆候が重なったら、免疫不全の可能性を疑う必要があります。
- 1年以内に4回以上の中耳炎
- 1年以内に2回以上の深刻な副鼻腔炎(鼻の奥の感染)
- 1年以内に2回以上の肺炎
- 深部の感染(膿瘍、敗血症など)を2回以上繰り返す
- 口や皮膚に真菌感染(カンジダ)が1歳を過ぎても続く
- 標準的な抗生物質を2ヶ月以上使っても感染が治らない
- 感染を治すために静脈注射の抗生物質が必要になる
- 体重が増えない、身長が伸びない(発育不良)
- 家族に免疫不全の歴史がある
- 通常では起きないような珍しい菌やウイルスで感染する(例:カビや特定のウイルス)
これらのサインのうち、1つでも当てはまれば、専門医の評価を受けるべきです。特に「1歳を過ぎても口内カンジダが続く」は、抗体の異常を示す特異度が89%と高い指標です。また、皮膚に赤い血管の網(毛細血管拡張)が見られるなら、アタクシア・テランギエクタシアという稀な免疫疾患の可能性があります。
診断の第一歩:血液検査と身体所見
免疫不全の疑いが出てきたら、まず基本的な血液検査から始めます。CBC(全血球計算)で白血球の数と種類を確認します。1歳以上の子どもでリンパ球が1,500個/μL以下なら、T細胞の問題を疑います。乳児では3,000個/μL以下が注意点です。
次に、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)の量を測ります。ここで重要なのは、年齢に応じた基準値を使うことです。3か月の赤ちゃんのIgGは平均243mg/dL、6か月で558mg/dL、5歳で成人レベル(700~1,600mg/dL)になります。8歳の子どもでIgGが420mg/dLだと「正常」に見えるかもしれませんが、年齢調整値では明らかに低く、実際には免疫不全のサインです。
身体所見も重要です。扁桃やリンパ節がほとんどない、または全くない場合、重度の複合免疫不全(SCID)の可能性が高くなります。78%のSCID患者でこの所見が見られます。また、皮膚に特徴的な発疹や、口内の真菌感染が長く続くのも、診断の手がかりになります。
抗体の機能を確認する:ワクチン応答検査
免疫グロブリンの量が低くても、それが本当に「機能していない」のかを確認する必要があります。そのため、ワクチン応答検査がゴールデンスタンダードです。
まず、破傷風やジフテリアのタンパク質ワクチンを接種し、4~6週間後に血液を取って抗体の量を測ります。破傷風の保護レベルは0.1 IU/mL以上とされています。次に、肺炎球菌の多糖体ワクチン(23価)を接種し、4~8週間後に抗体が上昇したか確認します。保護レベルは1.3 μg/mL以上です。
この検査で抗体が十分に上がらないなら、抗体の産生能力に問題があると判断されます。これが、一般的な「低免疫グロブリン血症」ではなく、一般的変動型免疫不全(CVID)と診断される基準です。CVIDの診断には、IgGが400mg/dL以下、かつIgAやIgMも低く、ワクチン応答が不良であることが必要です。
他の原因を除外する:免疫不全ではないケース
「反復感染」の原因は、免疫不全だけではありません。実は、43%のケースは免疫の問題ではなく、解剖学的な異常や他の病気です。
- 気管支拡張症や囊胞性線維症(CF):気道が粘液で詰まりやすく、感染が繰り返される
- 鼻や気道の構造的異常:鼻中隔湾曲や副鼻腔の狭窄
- 異物の誤嚥:子どもが小さな物を吸い込んで、気道に残っている
- 自己免疫疾患やがん:これらも免疫グロブリンを減らす原因になる
- 薬の影響:ステロイドや免疫抑制剤の長期使用
実際に、30%のCVIDと診断された患者のうち、実際にはこれらの「二次的」な原因が隠れていたという報告もあります。だから、免疫検査の前に、これらの可能性をしっかり除外することが、誤診を防ぐ鍵です。
診断までの道のり:平均112日 vs 427日
免疫不全の診断は、昔は平均9年以上かかっていました。でも、10の赤信号の基準を明確に使えば、その期間は2.1年まで短縮されました。
現在、適切な診断プロセスを守れば、最初の疑いから確定診断まで平均112日で終わります。一方で、適当に検査を進めると、427日もかかることがあります。この差は、患者の生活の質と命に直結します。
特に、SCID(重度の複合免疫不全)は、生後3.5ヶ月以内に診断されれば生存率が94%に上昇します。しかし、それ以降に診断されると、生存率は69%に落ちます。つまり、たった数ヶ月の遅れが、生死を分けるのです。
新しい診断技術:遺伝子検査の進歩
2023年、FDAは484個の免疫関連遺伝子を一括で検査できる次世代シーケンシングパネル(StrataID Immune)を承認しました。この検査は、従来の方法よりも2倍近くの確率で原因遺伝子を特定できます(35% vs 18%)。
今後、米国では新生児スクリーニングでSCIDを検査する州が38州に増えており、2018年は26州でした。これは、早期発見のための大きな進歩です。
NIHは2023年から、AIを使って免疫不全を予測する大規模研究を始めました。初期データでは、血液検査の結果だけでも92%の確率で特定の免疫疾患を予測できるという結果が出ています。5年以内には、遺伝子検査が最初の検査になる可能性があります。
注意点:誤った治療は危険
免疫グロブリンの点滴(IVIG)は、免疫不全の有効な治療法ですが、必要のない人に使うと危険です。
アメリカの研究では、22%の患者が「機能的抗体不足」がないにもかかわらず、IVIGを受けていることがわかりました。特に、「一時的な乳児低免疫グロブリン血症」は、生後6~18ヶ月で自然に治るものです。でも、41%の小児科医がこれをCVIDと誤診し、無駄な治療を始めています。
免疫グロブリンは、免疫機能が本当に低下している人にだけ、正しく使うべきです。そうでなければ、副作用(頭痛、発熱、腎障害)のリスクを背負うだけです。
地域格差と未来の課題
日本や米国などの先進国では、これらの検査が比較的受けられますが、世界の78%の低・中所得国では、基本的な免疫グロブリン検査すらできません。WHOは2024年、リンパ球サブセットのフローサイトメトリーを「基本診断ツール」としてリストに加える予定です。これにより、資源が限られた地域でも、早期発見が可能になる可能性があります。
免疫不全は、見逃されがちな病気です。でも、反復感染というサインを正しく読み取り、適切な検査を受ければ、多くの命を救えます。子どもが何度も感染するたびに「またか」とあきらめず、10の赤信号を頭に入れておくことが、大切な第一歩です。
子どもが年に5回風邪を引くのは免疫不全のサインですか?
いいえ、健康な子どもは1年間に6~12回の風邪を引くのが普通です。免疫不全のサインは、風邪の回数ではなく、感染の「種類」「重症度」「治療の反応」にあります。例えば、肺炎を2回以上繰り返したり、抗生物質が効かなかったり、真菌感染が1歳を過ぎても続く場合は、検査が必要です。
免疫グロブリンの値が基準値より少し低ければ、免疫不全ですか?
いいえ、年齢に応じた基準値を確認する必要があります。たとえば、8歳の子どもでIgGが420mg/dLは「成人基準」では正常ですが、年齢調整値では明らかに低いです。また、単に値が低いだけでは診断できません。ワクチンへの応答が不良であることも必要です。免疫不全の診断は、値だけでなく、機能の低下を組み合わせて判断します。
IVIG(免疫グロブリン点滴)はいつ必要ですか?
免疫グロブリンの産生が本当に不足していて、感染が繰り返され、抗生物質が効かない場合に必要です。例えば、CVIDやX連鎖無ガンマグロブリン血症の患者です。しかし、一時的な乳児低免疫グロブリン血症や、薬の副作用による低値には不要です。無駄なIVIGは副作用のリスクを高めるため、必ず機能検査(ワクチン応答)で確認してから導入してください。
家族に免疫不全の人がいれば、子どももなりますか?
はい、一部の免疫不全は遺伝します。特にX連鎖遺伝の病気(例:X連鎖無ガンマグロブリン血症)は、男の子に多く見られます。家族歴がある場合は、子どもが反復感染を繰り返した時点で、早めに専門医に相談してください。遺伝性の場合は、新生児期のスクリーニングや早期治療で予後が大きく改善します。
免疫不全の検査はどこで受けられますか?
小児科やアレルギー科の専門病院、大学病院の免疫・アレルギー部門で受けられます。一般のクリニックでは、免疫グロブリンの検査やワクチン応答検査ができないことが多いので、まずは小児科医に相談し、専門機関への紹介を依頼してください。日本では、免疫不全の診断・治療を専門とする施設が限られているため、早期の紹介が重要です。
kazunari kayahara - 24 12月 2025
この記事、めっちゃ役立つ!特に「1歳を過ぎても口内カンジダが続く」っての、俺の子供がまさにそれだったんだよね。病院で「ただの風邪」って言われてたけど、ここ読んだら即専門医に駆け込んだ。
結果、CVIDじゃなかったけど、IgA欠損だった。早期発見で助かった!