心不全患者における利尿薬と低カリウム血症の対応ポイント

心不全患者における利尿薬と低カリウム血症の対応ポイント

低カリウム血症チェックツール

心不全治療中に使用する利尿薬により低カリウム血症が発生するリスクを確認できます。血清カリウム値を入力してください。

結果: カリウム値を入力して「チェック」ボタンを押してください。

心不全患者で利尿薬を使うと、なぜ低カリウム血症が起きるのか

心不全の患者さんに利尿薬、特にループ利尿薬(フェロセミド、ブメタニド、トルセミド)を処方するのは、体にたまった余分な水分を出すための基本的な治療です。しかし、この治療がうまく機能する一方で、血中のカリウムが下がる低カリウム血症という副作用がよく起こります。カリウムは3.5 mmol/L以下になると低カリウム血症と診断され、心不全の患者では特に危険です。なぜなら、カリウムが足りないと心臓のリズムが乱れ、生命を脅かす不整脈を引き起こす可能性があるからです。

研究によると、ループ利尿薬を服用している心不全患者の20〜30%で低カリウム血症が見られます。特に高用量を長期服用している人や、他のカリウムを減らす薬(例:ステロイド、下剤)を併用している人では、その割合がさらに高くなります。ループ利尿薬は、腎臓のループ・オブ・ヘンレでナトリウムと塩化物の再吸収をブロックします。その結果、尿中にナトリウムがたくさん出ます。このナトリウムが遠位尿細管に届くと、カリウムを尿中に排出する仕組みが活性化され、結果として血中のカリウムがどんどん減ってしまうのです。

低カリウム血症は、心不全の予後を悪化させる

カリウムが低くなると、単にだるい、筋肉がつる、といった軽い症状だけではありません。心不全の患者では、血清カリウムが3.5 mmol/L以下になると、死亡リスクが1.5〜2倍になるというデータがあります。これは、心臓の電気的活動が不安定になり、心室細動や心室頻脈といった致命的な不整脈が起きやすくなるからです。特に心臓の筋肉が弱っている心不全患者では、このリスクがさらに高まります。

2022年の米国心臓協会(AHA)・米国心不全学会(HFSA)のガイドラインでは、低カリウム血症は単なる「副作用」ではなく、「治療の失敗サイン」であると明確に位置づけています。つまり、カリウムが下がっているということは、利尿薬の量が多すぎる、あるいは他の治療(例:RAAS阻害薬)が不十分である可能性を示しているのです。カリウムの数値は、心不全全体の管理の質を測るバロメーターとも言えます。

カリウムを補う方法:まずは食事と薬の見直し

低カリウム血症の対応は、まず「原因を減らす」ことから始めます。利尿薬の用量を無理に減らすのではなく、カリウムを排出しやすい状況を改善します。

  • ナトリウム制限の見直し:心不全患者には塩分制限(1日2〜3g)が推奨されていますが、過度な制限はレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を活性化させ、結果としてカリウムの尿中排泄を増やします。塩分を「極端に減らす」のではなく、「適正な範囲(80〜120 mmol/日)」で維持することが重要です。
  • 利尿薬の投与方法:フェロセミドを1日1回ではなく、1日2回(例:朝と夕方)に分けて投与すると、カリウムの急激な低下を防げます。1回の大量投与では、腎臓が一時的に過剰にカリウムを排出し、その後にナトリウムの再吸収が起きる「内投与耐性」が起こります。このサイクルを小さく分けることで、カリウムの変動を穏やかにできます。
  • 併用薬の見直し:下剤の乱用、ステロイド薬、他の利尿薬(チアジド系)の併用は、カリウムをさらに減らします。特に、フェロセミドにメトロラゾンを加えると利尿効果は高まりますが、その分低カリウム血症のリスクも上がります。この組み合わせは、慎重に使う必要があります。
スピロノラクトンと食品がバランスを保ち、他の薬が落ちる surreal なバランススケール。

薬物治療の中心:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRAs)

低カリウム血症の最も効果的な対策の一つが、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRAs)の導入です。スピロノラクトン(12.5〜25 mg/日)やエプレネノン(25 mg/日)は、カリウムを尿中に排出するアルドステロンの働きをブロックします。つまり、利尿効果を保ちながら、カリウムを守る効果があるのです。

この薬の価値は、単にカリウムを上げるだけではありません。RALES試験では、スピロノラクトンを服用した重度の心不全患者の死亡率が30%も低下しました。これは、カリウムの安定化だけでなく、心臓の構造的変化(線維化)を抑制する効果によるものです。2022年のガイドラインでは、射出率が低い心不全(HFrEF)の患者には、MRAsを早期に導入することが強く推奨されています。

カリウムが3.0〜3.5 mmol/Lの軽度低下なら、経口のクロライド(20〜40 mmol/日)で補充します。3.0 mmol/L以下になると、心電図モニター付きで静脈からカリウムを補う必要があります。このとき、ゆっくりと(1時間あたり10〜20 mmol)投与しないと、心臓に大きな刺激を与えてしまいます。

SGLT2阻害薬:新しい味方として登場

近年、心不全治療に大きな変化をもたらしたのがSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、ダパグリフロジン)です。これらの薬は、もともと糖尿病の治療薬でしたが、心不全患者にも効果があることが明らかになりました。

EMPEROR-PreservedやDELIVERなどの大規模試験で、SGLT2阻害薬を服用した患者は、利尿薬の必要量が20〜30%減ったことが確認されています。これは、薬が腎臓から糖とナトリウムを一緒に排出することで、体全体の水分量を減らすからです。そして、重要なのは、この薬はカリウムをほとんど減らさないことです。むしろ、一部の研究ではカリウムが少し上昇する傾向が見られます。

2022年のガイドラインでは、SGLT2阻害薬を心不全全般(HFrEFとHFpEFの両方)の標準治療に加えることが明記されています。利尿薬の量を減らすことができれば、低カリウム血症のリスクも自然に下がります。この薬は、カリウムの管理を「薬で補う」のではなく、「薬の負担を減らす」戦略の中心的存在になっています。

体内でカリウムが尿中に排出される仕組みを時計仕掛けで表現した抽象図。

定期的なチェックと、患者自身の役割

カリウムの管理は、薬を飲むだけでは終わりません。定期的な血液検査が不可欠です。新しい利尿薬の開始や用量変更後は、最初の1週間で1〜2回、その後は月1回の頻度で血清カリウムを測定します。急性の悪化時には、1〜3日に1回のチェックが必要です。

患者自身ができることは、以下の通りです:

  • 薬をきちんと飲む。特にMRAsは、カリウムを上げる効果があるため、勝手にやめない。
  • カリウムを多く含む食品(バナナ、アボカド、ほうれん草、豆類、干し果実)を適度に摂る。ただし、腎機能が悪い場合は医師に相談が必要。
  • 塩分の取りすぎに注意。加工食品、インスタント食品、コンビニ弁当は避けましょう。
  • 下剤の使用を控える。便秘が続くなら、医師に相談して安全な薬を処方してもらう。

今後の展望:個別化された治療へ

今後、心不全の治療は「一律の薬量」から「個人に合わせた最適化」へ進んでいます。B型ナトリウレチックペプチド(BNP)やeGFR(腎機能)の数値をもとに、利尿薬の量を調整する「バイオマーカー誘導療法」が、低カリウム血症の発生を15〜20%減らす可能性があります。

また、長時間効果の持続する新タイプの利尿薬(持続放出製剤)の開発も進んでいます。これにより、1日1回の投与でカリウムの変動を最小限に抑えられるようになるでしょう。さらに、高カリウム血症に使うカリウム結合剤(例:パラスチレン・スルホン酸ナトリウム)を、低カリウム血症の予防にも応用できないか、研究が進められています。

心不全の治療は、利尿薬とカリウムのバランスをとる「細かい舞踏」です。薬の量を増やせば水分は減るが、カリウムも減る。減らせば水分は残る。その中で、患者の命を守るのが、医療チームと患者の協力です。今、あなたが飲んでいる薬は、単なる「水を出す薬」ではなく、心臓のリズムを守るための重要な鍵なのです。

心不全で利尿薬を飲んでいると、必ず低カリウム血症になるのですか?

必ずしもなりません。多くの患者は問題なく治療を継続できます。しかし、ループ利尿薬を高用量で長期服用している人、腎機能が低下している人、他のカリウムを減らす薬を併用している人では、リスクが高くなります。約20〜30%の患者で起こるという統計がありますが、適切な管理をすれば、ほとんどの場合予防できます。

カリウムを補うなら、バナナをたくさん食べればいいですか?

バナナやアボカド、ほうれん草などはカリウムが豊富ですが、それだけで血中のカリウムを十分に上げるのは難しいです。特に腎機能が悪い患者では、過剰なカリウム摂取が逆に高カリウム血症を引き起こす可能性があります。薬による補充(経口カリウム製剤)が主な方法であり、食事は補助的な役割です。医師の指示に従って摂取してください。

スピロノラクトンは男性でも安全ですか?

はい、安全です。スピロノラクトンは、男性でも心不全の治療に広く使われており、死亡率を下げる効果が明確に証明されています。以前は「男性の乳房が張る」という副作用が心配されていましたが、低用量(12.5〜25 mg/日)ではそのリスクは非常に低く、メリットの方がはるかに大きいです。副作用が気になる場合は、エプレネノンという副作用が少ない薬に変更することもできます。

SGLT2阻害薬は、糖尿病がなくても飲めますか?

はい、糖尿病がなくても飲めます。SGLT2阻害薬は、心不全の治療薬として、糖尿病の有無に関わらず推奨されています。2022年のガイドラインでは、心不全全般(射出率が低くても高くても)の患者に、この薬を加えることが強く勧められています。血糖を下げる効果ではなく、体の水分バランスを整える効果が心不全に役立つからです。

低カリウム血症の症状は、どうやって気づけばいいですか?

初期の症状は、だるさ、筋肉のしびれ、筋力低下、便秘、頻脈などです。しかし、多くの場合、自覚症状がほとんどなく、血液検査で初めて気づくことがあります。特に心不全の患者は、もともと疲れやすいので、カリウムが低いことと区別がつきにくいです。だからこそ、定期的な血液検査が不可欠です。症状が出てから対応するのではなく、予防することが大切です。

長谷川寛

著者について

長谷川寛

私は製薬業界で働いており、日々の研究や新薬の開発に携わっています。薬や疾患、サプリメントについて調べるのが好きで、その知識を記事として発信しています。健康を支える視点で、みなさんに役立つ情報を届けることを心がけています。